“目フェチ”な尾上右近が惹(ひ)かれた仲野太賀のまなざし

──「目」ですか。

「どんなに隈取り(くまどり)をしていようが、真っ白に顔を塗っていようが、何十キロの衣装を着ていようが、目を見たら相手とのつながりを感じる。フェイクで固められた中に現れる、本当の瞬間にしびれます。僕が歌舞伎を好きな理由のひとつです」

──役者さんの「目」の力は、観客にも伝わります。

「言ってしまえば、うまいとかヘタとか、その人がキレイだとかそうじゃないとか、2000人規模とかの大きな空間になると、関係なくなってくるんですよね。上の客席から見たら、誰が誰だか、正直分からないかもしれない。それでも、どんなに離れていても、不思議と“目”は印象に残る。そこに本当の瞬間が宿るからだと思います。僕ね、目フェチなんです」

──目フェチ(苦笑)。そんな右近さんが、最近惹(ひ)かれた目の持ち主は誰ですか?

「歌舞伎ではなく映画なんですが、11月に公開される『十一人の賊軍』にも出演させていただきまして、試写を見たんです。そのとき仲野太賀くんの目は“やっぱりすげえ!”と思いました」

──仲野太賀さん。

「すごく真っすぐな目をしていますし、彼自身が、そういう人。僕は“芸は人なり”という言葉が好きなんですね。人間性が表現の魅力を左右すると。そのことも、まさに虚と実につながると思うんですけど、太賀くんの目は、本当に印象に残りました」

“芸は人なり”。右近さんは32歳、太賀さんは31歳。同世代の、歌舞伎の外での刺激も受けてCHANGEしながら、表現を豊かにしていく右近さんの“目”も、どんどん魅力を増しているはずだ。

(つづく)

尾上右近 撮影/有坂政晴

尾上右近(おのえ・うこん)
1992年5月28日生まれ、東京都出身。曽祖父は六代目尾上菊五郎。母方の祖父は俳優の鶴田浩二。’99年、7歳のときに舞伎座『舞鶴雪月花』の松虫で初舞台を踏む。’04年に新橋演舞場『人情噺文七元結』で、二代目尾上右近を襲名。’18年には浄瑠璃唄方の名跡、清元栄寿太夫を襲名した。’21年に映画『燃えよ剣』で映画初出演を果たし、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。歌舞伎のみならず、映画やドラマなど映像作品にも活躍の幅を広げている。近年の主な出演作品は、NHK大河ドラマ青天を衝け』、映画『ヘルドッグス』(2022)『わたしの幸せな結婚』(2023)『身代わり忠臣蔵』(2024)。最新作の『八犬伝』にて、三代目尾上菊五郎を演じている。待機作に映画『十一人の賊軍』、劇場アニメーション『ライオン・キング:ムファサ』。
スタイリスト:三島和也(Tatanca)
ヘアメイク:白石義人(ima.)

映画『八犬伝』
原作:『八犬伝 上・下』山田風太郎(角川文庫刊)
脚本・監督:曽利文彦
製作総指揮:木下直哉
出演:役所広司内野聖陽土屋太鳳、渡邊圭祐、鈴木仁、板垣李光人、松岡広大、水上恒司、佳久創、藤岡真威人、上杉柊平、河合優実、栗山千明、中村獅童、尾上右近、磯村勇斗、立川談春、寺島しのぶ、黒木華
配給:キノフィルムズ