夏場所の優勝で人生は変わった

 優勝パレードの旗手は、中学、高校、大学時代を通じて先輩にあたる、同じ部屋の十両・白熊が務めた。

「大の里~」「優勝おめでとう~!」

 オープンカーから沿道のファンに手を振る大の里への声援が飛びかう中でも、なかなか「初優勝」を実感できなかったというほど、緊張と喜びに満ちた1日になった。

「夏場所の初優勝で、僕の人生は変わりました。1年前(23年夏場所)に初土俵を踏んだ時はまだ坊主頭で、不安ばかりでしたし、こんな日が来るとは想像できなかったです。
 その頃は、ちょうど(実業団横綱のタイトルを獲って、幕下15枚目格付け出しで入門した)19歳の落合(現十両・伯桜鵬)が1場所で新十両を決めて、注目されていた。しかも幕内まで所要3場所です。年下の彼と比較されて、すごく悔しい思いをしました。その悔しさがあったから、がんばれた……という部分もありましたね」

 大の里はこう振り返る。

 7月の名古屋場所では9勝(6敗)止まりだったものの、9月の秋場所で13勝2敗で2度目の優勝を飾り、大関をも手にした大の里は、大関昇進伝達式から3日後、中学、高校時代を過ごした「第2の故郷」新潟県糸魚川市を訪問した。

 県立海洋高校相撲部の田海総監督が、笑顔で大の里を迎える。懐かしい顔、風景の数々……。携帯電話、ゲーム類も禁止という年頃の男子には厳しい環境の中、相撲に打ち込んだ日々が思い出される。

「こんなにたくさんの人が集まってくれるとは、予想だにしていませんでした。うれしいばかりです」

 高校時代の思い出にしばし浸る大の里。

 そして、10月6日には、出身の石川県津幡町に隣接する金沢市で大相撲秋巡業がおこなわれた。

 この日駆けつけた観客の数は、4700人。大の里は、大関・琴櫻、豊昇龍と申し合い稽古をするなど、精力的に稽古をこなしたほか、握手会でファンと触れ合うなど、「凱旋」を果たした。

「たくさんの歓声をいただき、本当に力になります。地元の方々の期待に応えられるよう、九州場所はしっかりがんばっていかないといけませんね」

 と、大の里。

 関取の象徴である大銀杏が結えない「ちょんまげ大関」というニックネームが浸透しているが、髪の毛の伸びが出世に追いつかず、11月の九州場所でも、大銀杏での登場は難しいという。

 大の里はつねに口にする。

「日本中のみなさんから応援される、愛されるようなお相撲さんになりたい」

 大きな夢、目標である、その上の地位に、今、大の里は邁進している。

大の里(おおのさと)
二所ノ関部屋所属の力士(本名:中村 泰輝)平成12年6月7日生まれ。石川県河北郡津幡町出身。身長/192.0cm、体重/182.0kg
初土俵は令和五年五月場所、同年九月場所に新十両、令和六年一月場所で新入幕を果たす。同年3月場所に平幕で初優勝、そして9月場所では関脇として13勝2敗で優勝し、大関昇進を果たした。