脚本を書く前に、彼のインタビューをすごくたくさん読んだ
――叫ばせたかったんですね。
荻上「ギャップのある人に叫ばせたかったんです」
吉岡「いろんな個性的なキャラクターが登場する作品で、沢田がいろんな人に出会って影響されていくんですけど、みんな芯が揺らいでなくって、鋭く影響を与えていくんです。ひとり揺れ動いて漂っている沢田を、“自分はこうなんだ、こう思っている”と芯のあるキャラクターたちが囲んでいる図に惹かれました。なかでも矢島に関しては、楽しくやらなきゃダメだなと。ちょっとずつ揺れ動いて核心に近づいていく沢田の目の前に、いきなり爆竹を投げたみたいな、お客さんが“いま、何が起こったの?”となるような人になればいいなと思っていました」
――もともと堂本さんへのあて書きからスタートした作品とのことですが、どうやって揺れ動く沢田へと繋がっていったのでしょう。
荻上「脚本を書く前に、彼のインタビューをすごくたくさん読んだのですが、子どもの頃から仕事をされてきて、“子どものときは理不尽なことを言われても、子どもなんだから黙ってやれと言われ、大人になったら大人になったで、大人なんだから黙ってやれと言われた”みたいなことが書かれていました。そういうことが重なって、どうしていったらいいか分からなかったときに、音楽と出会って自分を取り戻すことができたと。そこから、“自分がわからなくなってしまう人の話”を書こうと思ったんです」
――吉岡さん演じる矢島は、「沢田さんを見てると、なんか辛い」とぶつけますね。
吉岡「なぜオリジナリティで戦うべきアーティストが、言われるまま、自分の選んだ色でもない、選んだ構図でもないものを描き続けているのか。沢田さんと同じアトリエで働いている矢島は、自分らしく生きたいと、衣裳や見た目で“私はこうなんだ”と出しているけれど、実際は縛られて身動きができていない。そうしたことにすごくフラストレーションを感じている。でも沢田は、ルーティーンとして、言われるままになっていることを生活の中に入れてしまっている。その姿に、“自分もいつかそうなるんじゃないか。沢田さんのように、ロボットのように絵を描いてしまうんじゃないか”と」
――でも、そんなフラストレーションをぶつけたときの沢田の反応は。
吉岡「“え?”と。“俺ってそう見えてるんだ”という感じで。彼自身は気づいていない。そこが面白くて、好きなシーンでした」