「ただかわいいだけではなくて、汚い顔もする」

「女の子はたくさん描いてきて、一応は成功したんですが、実はかわいらしいってどういうものなのか分からないんですよ。自分は単純にかわいいだけじゃダメで、ウケるかわいらしさを考えてきたので」

 楳図さんにとって、ウケるかわいらしさとは、どういうものなのだろうか。

「着せ替え人形のような、ただかわいいだけではなくて、汚い顔もする。びっくりしたり驚いて『ゲーッ』って言ったりする。編集部の要請で見た目のかわいい女の子を描くけれど、かわいいだけじゃないところを表現する。リアルというか、人間の根源みたいなところを描こうとしていたんです。生きている女の子ですね。苦労はしましたが、そこにたどり着けたから、僕は勝ったんだと思います。これもある意味で、CHANGEでしたね」

 何度も困難に直面しながら、オリジナルな漫画を追求し続けてきた楳図さん。その努力の成果がデビューから約10年後、60年代の後半に一気に花開くことになる。

(後編につづく)

■楳図かずお(うめず・かずお)
1936年生まれ。和歌山県で生まれ、奈良県で育つ。小学校4年生で漫画を描き始め、高校3年生のときにデビュー。『へび少女』などのヒットにより、ホラー漫画の第一人者となる。一方で『まことちゃん』などのギャグ漫画を手掛け、『漂流教室』では、小学館漫画賞を受賞。ほかにも『おろち』『わたしは真悟』『神の左手悪魔の右手』『14歳』などヒット作を連発。タレント、歌手、映画監督としても活躍し、18年『わたしは真悟』で仏・アングレーム国際漫画祭「遺産賞」を受賞。23年手塚治虫文化賞特別賞を受賞している。
​2024年10月28日逝去(享年88)。