1972年に『漂流教室』、76年に『まことちゃん』、82年に『わたしは真悟』、86年に『神の左手悪魔の右手』、90年に『14歳』を発表した楳図かずおさん。SF大作からホラー、ギャグと多彩な才能を発揮したが、『14歳』が終了した95年から休筆してしまう。長年の執筆による腱鞘炎など、肉体的な疲労が主な理由だった。

 しかし、22年、『楳図かずお大美術展』で『わたしは真悟』(小学館)の続編となる『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』を発表。実に27年ぶりとなる新作を描くきっかけは、なんだったのだろうか?

「周りの環境に反応してやった、ということです。新作を描く気持ちはあったんですが、普通にやると紙の印刷物になるでしょ。僕の中でそれは新しくないよな、という気持ちがあったんです。今までやっていなくて、新しい形でやりたかった。」

 そうすると、展覧会で作品を発表するというのは、表現方法としては元に戻りすぎているぐらいで、それを漫画でやるというのは新しいぞと思っていたんです。そういうときに、展覧会の話が来たんですね」

『ZOKU-SHINGO』は101点の絵画による連作。漫画であって漫画ではない、新しい表現物となっている。ここまで意欲的な作品に取り掛かるには、展覧会の開催以外にも、きっかけがあった。

漫画界のカンヌとも呼ばれる国際漫画祭で受賞

「2018年にフランスのアングレーム国際漫画祭で『遺産賞』をいただいた、その瞬間に“やる”って思ったんです。それだったら、描き下ろしでやろうと。それまでも原画を展示する展覧会の話はあったんですが、そうではなくて新しく描こうと、勇気が一瞬にわいたんですね」

 アングレーム国際漫画祭は、漫画界のカンヌともいわれている権威あるもの。さらに「遺産賞」は、後世に残すべき作品に対して送られる。その評価は楳図さんの制作意欲を大いにかきたてたようだ。

「『遺産賞』でいただいたからですよ。普通の賞では新作を描こうとは思わなかったですね。だから、しっかりといいものを描いて、漫画ではない手法、美術ということでびっくりさせようと、それまでとは180度違う方向にいったんです」

『楳図かずお大美術展』は22年に東京と大阪、今年は愛知で開催されている。コロナ禍でのスタートであったにも関わらず、各会場大勢の来場者を数え、楳図さんの新境地を多くの人に届けることに成功した。

「若い人が多く来てくださっているんですよ。漫画からかけ離れた芸術で、圧倒させることができて、おかげさまでめちゃめちゃうまくいきました」

 そして、今回の展覧会は時代的にも、新しいものであるという。