声だけでお芝居するところの面白さ

――声だけでお芝居する面白さをどんなところに感じますか?

「ヘルムは大柄な男性なのですが、自分の体型がどうであろうと、自分の魂がその役になればどんな役でもできるところが面白いんですよ。

 たとえば、『サザエさん』に出てくるタラちゃんの初代声優を務めた貴家堂子さん(23年に87歳で逝去)のように“あんなに年配の方がタラちゃんの声をやっていたの?”と思った方もいらっしゃるでしょう。

 姿形がどうであろうと、魂がその役になっていればヘルムもできるし、タラちゃんもできる。そういうことだと思うんです。だから声優や俳優を仕事としている人のイマジネーションや想像力が、役に反映していくのだと思っています」

――では、逆に難しいと思うことは?

「難しいことをするのが、俳優という仕事の大好きなところなんです。“他人の人生を生きてみたい”と思ってこの世界に入ったわけだから。まして、こんな強烈な役を疑似体験できたことは貴重な経験だし、目をつぶれば、自分がそこに“ヘルム”として“居る”と言い切れる。そこが楽しいから、難しければ難しいほどトライのしがいがあるし、前に進もうと思えるんです」

――今作は、どこかシェイクスピアの舞台を連想するような印象も受けました。

「それこそあと10日ぐらい練習できていたら、シェイクスピアをやっているような形でできたかなと思います。ただ、舞台は声を張らなければいけないけれど、今作はアニメなので、録音マイクにすべてをぶつける気持ちでやっています。それでもある程度、劇場でやるくらいのパワーも出さなければいけない。やはりそこは両方やらなければいけないかなと思います。

 僕もシェイクスピアの作品は『ロミオとジュリエット』、『ハムレット』、『ヴェニスの商人』、『マクベス』と、美味しい作品を全部やらせてもらっているので、残っているのはもう『リア王』くらいかな」

――『リア王』は、シェイクスピア四大悲劇の一つと言われている作品ですね。

「なので、このような作品をやっていると、心の片隅で“これは『リア王』の布石なのかな”と思ってしまいますね(笑)」