“頭の中のイメージを文字にできない”初めて感じる苦悩

 とはいえ慣れない執筆作業。苦労も多かったようだ。

「40年近く演者をやっていたので、人を動かすことはイメージできるんです。ただ、それを文章にするとなると、手がついていかないんです。最初はパソコンも使わないで携帯のメモに書いていたんですが、言葉は間違えるし打ち間違いはするし、どうしてできないのって泣いちゃったりとかして」

 苦労を重ねながらコツコツと書き続けていった作品。「小説家になろう」に投稿したのも、意外な理由からだった。

「コロナ禍が明けて、もしこのデータが飛んじゃったら、この文章はなくなっちゃうんだと思ったんです。バックアップもできるけど、そのときは私、あまり詳しくなくて。それで“小説家になろう”は、自分が公開を希望した段階で、みんなが読めるようになるタイプの、クラウドサービスの一種だと思っていたんです。でも、投稿した段階で公開されていて、それを知って“うわーっ”ってなっちゃって。
 もともとコロナでいろいろ制限されたから新しい仕事を、という感じではなかったんです。誰かに作品を託すというか、とりあえず残しておけば誰かがどうにかしてくれるかなと。自分で作品をどうこうするって考えは、まったくなかったですね」

国生さゆり 撮影/有坂政晴