画面のどこにいても、どうしても追う目が止められずに引き込まれ、喜怒哀楽を刺激される俳優・佐藤二朗。ドラマ『勇者ヨシヒコシリーズ』(テレビ東京系)をはじめとするコメディでの活躍が思い浮かぶ一方で、近年は監督・脚本を務めた映画『はるヲうるひと』(21年)や、第14回TAMA映画賞で最優秀男優賞を受賞した主演映画『さがす』(22年)など、観る者を震撼させる凄みを放つ。コメディからシリアスまでその才覚を発揮し、コラム集『心のおもらし』(朝日新聞出版)を上梓するなど、多方面で活躍する佐藤さん。一筋縄ではいかなかった俳優道での『THE CHANGE』とはーー。

佐藤二朗 撮影/川しまゆうこ 

 佐藤二朗さんの経歴といえば、サラリーマンを経て俳優にジョブチェンジしたのは有名だが、自身が認識する”CHANGE”はそこではなかった。人生が激変した出来事を問うと、間を空けずに「あるある。いくつかあったよね」と即答したのは、まず、妻との出会いだった。

佐藤「劇団の養成所の研究生だった頃、妻がそこの1期生で俺は3期生で、今でも妻を初めて見たときのカットを覚えているんですよ。なぜかわからないけど」

 それは、掃除をする際のことだった。

佐藤「先輩だった妻がロッカーに案内してくれて、“雑巾はここにあります”と振り向いたときの顔とそのときの情景を、いまでもよく覚えているんです」

ーーそのとき、恋に落ちたということですか?

佐藤「いやいや、違う。ポジティブな感情が動いたわけでもないのに、なぜか覚えている。だから不思議なんです」

ーーではその後、どんなふうに恋に落ちていかれるんでしょう。

佐藤「それはあなた……大きなお世話です。54歳のおっさんに“どうやって奥さまと恋に落ちたか”なんて聞かれてもね、大きなお世話ですよ。ただね、20代の”暗黒期”に芝居を諦めずにいられた理由のひとつは、間違いなく、妻がいたからなんです」