1958年に福岡県で生まれ、早稲田大学政治経済学部を卒業。出版社勤務を経て、2000年『一瞬の光』でデビューした小説家の白石一文。白石一郎を父に持つ彼のTHE CHANGEとは。【第2回/全2回】

白石一文 撮影/イシワタフミアキ

 大学在学中はいくら投稿してもまったくダメ。とはいえ、もう小説家の道を諦めるつもりはない。だから一応、就職活動の真似事はして「全部落ちたので小説家を目指します」ってことにするつもりで文藝春秋を受けたんです。あの頃、マスコミといえば就職先として大人気で、文春なんかは倍率400倍だったから、もう絶対合格できない前提です。なのに、不本意ながら受かってしまいました。しかも、入社後は順調に結果を出した。このままいったら十数年後には社長だなと自分で思うぐらいに。

 ところが、組合活動をやっていたのもあってか、会社から目をつけられて花形の『文藝春秋』編集部から、純文学誌である『文學界』編集部に異動になりました。当然、小説家を担当するわけですが、自分自身が小説家になりたい人間が人の原稿をもらってあれこれ言うのに違和感がある。また、その時期にはプライベート、結婚生活がうまくいかなくて、生活がむちゃくちゃになっていったんです。不眠で睡眠薬をバリバリ食っている一方で、精神刺激剤を山ほど飲んで仕事をする。そんな生活でした。そしてある日突然精神が壊れてしまった。パニック障害です。結局故郷に帰り、7か月間実家で過ごしました。その休養期間がなかったら死んでいたかもしれません。

 その後、紆余曲折を経て専業作家になって今に至るわけですが、その次の転機というとやはり今の女房と出会ったことだと思います。女房とはもう25年も一緒に暮らしているけれども、僕はこの人が死んだらどうなるんだろうと思うんですよね。逆に、僕が死んだらこの人はどうなるんだろうとも。

 そういう思いがひとつの形になったのが昨年10月に出した『代替伴侶』です。この物語は、近未来の日本を舞台に、人口が爆発的に増えた結果「代替伴侶法」という法律が施行されたという設定で、伴侶の不実によって精神的打撃を被った人間が、10年間という期限つきでかつての伴侶と同じ記憶や内面を持った「代替伴侶」を貸与されて新たな生活を送る姿を描いています。