結婚相手って、やっぱり特別な存在だと思う

 代替伴侶はアンドロイドだけれども、自分が人工的に作られた存在だとは知りません。そうして、不実はなかったことになって元の生活が続いていく。でも、その結婚生活もまた破綻してしまいます。ところが、アンドロイドは自分がコピーであることを知らないので、不倫の被害者として伴侶のコピーを求めます。それが認められてしまったことで、双方コピーである二人が、オリジナルがなし得なかった仲睦まじい夫婦関係を築く結果になってしまう。それを知ったオリジナルの2人は改めて自分たちの関係性を振り返ることになります。

 ちょっとSF的な設定だけれども、書こうとしたのは、一度は一緒になった人と深くつながることの醍醐味です。結婚相手って、やっぱり特別な存在なんだと思うんですよ。生活していく中でいろんな問題が起きるうちに、だんだんそれを感じられなくなるものだけれども。

 夫婦とは、一緒にいることそれ自体に価値があるのではなく、相手が死んで、深い人間関係が奪われる体験をすることになる点に価値があると思っています。そのときにどう思うかが「人間である証」とでも言えばいいでしょうか。その証を得るためには誰かと一緒にいなきゃいけない。その誰かとは、やはり配偶者なんですよ。

 これからどんどん子供が少なくなっていく中、みんなもうちょっと夫婦関係を大切にしたほうがいいと思います。すごく月並みだけれども、奥さんってやっぱりすごく大事です。奥さんが旦那さんを大事にするより、旦那さんが奥さんを大事にすることのほうがはるかに意義が大きい。人間関係において当たり前のことをおろそかにしていると失われるものがあります。その大切さに気づけば、夫婦関係が変わり、ひいては人生も変わるんじゃないでしょうか。

白石一文(しらいし かずふみ)
1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。出版社勤務を経て、2000年『一瞬の光』でデビュー。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞、10年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。その他の著書に『心に龍をちりばめて』『プラスチックの祈り』『僕のなかの壊れていない部分』『君がいないと小説は書けない』『我が産声を聞きに』『Timer(タイマー) 世界の秘密と光の見つけ方』などがある。

『代替伴侶』 白石一文
筑摩書房刊
定価:本体1700円+税
理想の愛のかたち、あり得た夫婦のかたちを模索する、近未来の日本が舞台の書き下ろし長編小説。「代替伴侶法」が施行された近未来。伴侶と別れ、精神的に打撃を被った人間に対し、最大10年間という期限つきで、かつての伴侶と同じ記憶や内面を持ったアンドロイドの「代替伴侶」が貸与されることになった。