サムスン電子・会長との出会いのはじまりは──

 これまでメディアの露出が少なかったにもかかわらず、鈴木さんは以前より世界的なセレブリティに広く認知されている。その始まりは、世界最大級の電子製品メーカーであるサムスン電子(以下、サムスン)の会長との出会いにあるようだ。

「僕は高校卒業と同時に、盆栽の道に没頭していたので、いろいろなことを知らずに大人になったんですよね。ですから、後にすごくよくしていただいたサムスンの会長さんにお会いしたときも、介護サービスのコムスンと勘違いしていたほどでした(苦笑)。
 知り合いから“サムスンの会長さんが会いたいと言っている”と言われ、最初は東京都・新橋にある東京美術俱楽部でお会いしました。そのときにいろいろとお話していくうちに、会長さんが“ぜひ、うちに来てください”と言って、韓国にお招きくださったんです。
 あれこれお話を聞いていくうちに、ご自身が病気になって、先代が大切にしていた盆栽に目が向くようになったのだと打ち明けてくれました。命について考えるようになり、すでにこの世にはいない人と盆栽を通じてつながりたいと思われたのかもしれません」

鈴木伸二 撮影/有坂政晴

「そこに大事な人はいなくても、その人たちが愛したものが時空を超えて目の前で生きているって、衝撃的ですよね。盆栽をそばに置き、眺めたりすることで、自分のルーツや亡き人たちに思いをはせることができるんです。そうやって過去を振り返る手掛かりにも、盆栽は役に立ってくれます。
 サムスンの会長さんは確か、たまたまどこかで僕の作品を見てお声をかけてくださったと思います。ブルガリとのコラボレーションも、知り合いが結んでくれたご縁でした。銀座のブルガリが10周年を迎えるにあたり、歴史ある盆栽を飾りたいという要望でした。銀座にはイタリアから副社長も来ていて、“ブルガリは140年になります”とおっしゃいました。僕がお持ちした盆栽は樹齢700年余だとお話すると“私たちブルガリも、もっと頑張らなければ”と、とても感激してくださいました。