「この映画をきっかけに電話してみようかなとか、会ってみようかなと思ってくれることがあったら、いいな」

──『洗骨』『かなさんどー』ともに、見送る側の物語でもあります。さらに、ともに短編から長編へと新たに生まれ変わった作品ですが、『かんさんどー』は、娘から父への“葛藤”に踏み込んでいますね。

「どう見送ってあげるべきなのか。そこには“成功例”もたくさんあるでしょうが、“失敗例”もあると思います。きっと、みなさんもいろいろ経験しているのではないでしょうか。この作品では、母の死に際して、父を許せなくなった娘が、今度は父の死を前にする。いったい、どう見送ったらいいのか」

照屋年之(ガレッジセール・ゴリ) 撮影/冨田望

「憎いけれど、会いに行くしかない。そんなとき、大好きだったお母さんが残した日記を見つけて、愛おしい(“かなさんどー”とは、“愛おしい”を指す沖縄の方言)秘密を知ってしまう。そうして選択した彼女の見送り方も、僕はステキだなと思って、こういう内容にしました。ただ、公開にあたって主演の松田るかちゃんと話していて、“面白いな”と感じることがありました」

──どんなことがあったのですか?

「彼女が、“私は、美花はお父さんを完全には許さないまま見送ったような気がします”と言ったんです。“許せてはいないけれど、母のためにもこういう見送り方をしてあげたかった感じがする”と。自分が書いた脚本だけれど、僕の思っていたこととはちょっと違っていた。でもそういう考えもあるなと。新しい側面を教えてもらった感じがしました」

──監督の中で生まれた物語が、より広がっていきますね。

「この映画を見た人の中に、自分の愛おしい人が浮かぶのか、わだかまりのあった人が浮かぶのか、わかりません。でもこの映画をきっかけに電話してみようかなとか、会ってみようかなと思ってくれることがあったら、いいなと思っています」

(つづく)

がれっじせーる・ごり(てるや・としゆき)
1972年5月22日生まれ、沖縄県出身。映画監督・芸人・俳優。1995年に川田広樹とお笑いコンビ「ガレッジセール」を結成。2006年から映画監督のキャリアをスタートし、初監督作品になる短編映画『刑事ボギー』でショートショートフィルムフェスティバルの話題賞を受賞した。2009年『南の島のフリムン』で長編監督デビューを果たす。2018年、本名の照屋年之名義で監督・脚本を務め、奥田瑛二を主演に迎えた映画『洗骨』は、モスクワ国際映画祭、上海国際映画祭などの映画祭に出品。日本映画監督協会新人賞を受賞するなどの評価と、観客からも高い支持を集めた。長編監督最新作『かなさんどー』が公開。

●作品情報
映画『かなさんどー』
2025年2月21日(金)全国公開
監督・脚本:照屋年之
製作総指揮:福田淳
主題歌作詞・作曲:前川守賢
歌唱指導:古謝美佐子
出演:松田るか、堀内敬子、浅野忠信 ほか
公式サイト: https://kanasando.jp/