エロティシズムや濡れ場というのは、人間の営みとしてメシを食うのと同じように描かれるべき
以後、ロマンポルノ作品を何本か手掛け、初めての一般映画作品はATGの『遠雷』(1981年)でした。原作者の立松和平さんの作品は、それ以前から読んでいて「この人は僕らの時代を代表する作家だ」と共感を持っていたんです。
ヒロインには石田えりさんを選びました。若いながらも肝が据わっていて、しっかりした体つきもこの役にぴったりだと思ったんです。『遠雷』では、彼女と永島敏行さんの濡れ場が話題になりましたね。映画にしても、小説にしても、エロティシズムや濡れ場というのは、人間の営みとしてメシを食うのと同じように描かれるべきだと思います。それが取締りの対象になるわけですが、映倫やそうした権力に対する抵抗としても、きちんと描いていきたいという思いがあります。
1982年に映画監督たちが集まって結成した制作会社「ディレクターズ・カンパニー」に参加したことは大きな転機でした。代表は長谷川和彦さんで、メンバーには石井聰亙さん、井筒和幸さん、池田敏春さん、大森一樹さん、黒沢清さん、相米慎二さん、高橋伴明さんがいました。
僕らは、自分たちが本当に撮りたいと思う作品を企画し、それを興行まで含めてシステム的に映画の世界に提示したいという強い思いを共有していました。ただ、誰もマネジメント能力を持っていなかったのが問題でしたね(笑)。
(つづく)
根岸吉太郎(ねぎし・きちたろう)
1950年8月24日、東京生まれ。映画監督、教育者。早稲田大学第一文学部演劇学科を卒業後、1974年に日活に入社し、1978年、『オリオンの殺意より 情事の方程式』で監督デビュー。1981年に一般映画作品『遠雷』でブルーリボン賞監督賞と芸術選奨新人賞を受賞。2005年には『雪に願うこと』で東京国際映画祭のグランプリ・監督賞を含む史上初の四冠を達成し、2009年の『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』ではモントリオール世界映画祭最優秀監督賞を受賞、2010年には紫綬褒章を受章している。また、東北芸術工科大学の理事長を務めるなど、教育分野でも活躍する。
『ゆきてかへらぬ』
監督:根岸吉太郎、脚本:田中陽造。
出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生ほか。配給:キノフィルムズ。2月21日より全国公開。
〈あらすじ〉大正時代。新進女優・長谷川泰子(広瀬すず)は、詩人の中原中也(木戸大聖)と惹かれ合い、同棲を始める。文芸評論家・小林秀雄(岡田将生)は中也の詩の才能を高く評価し、泰子の女優としての才能を見いだす。交錯する感情と複雑な関係の中で、3人の愛と葛藤が揺れ動く。
(c)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
公式サイト: https://www.yukitekaheranu.jp/