「僕がギャグをやりますよと、手をあげたんです」

『週刊少年サンデー』(小学館)で『漂流教室』、『少女コミック』(小学館)で『洗礼』と大作を描きあげた楳図さんだったが、その勢いはまだまだ衰えなかった。

「『サンデー』の編集の人が、赤塚不二夫さんがやめてギャグ漫画がなくなってしまった。“ギャグのサンデー”と言われているのにギャグ漫画がないって嘆いていたんですよ。それだったら僕がギャグをやりますよと、手をあげたんです」

 そして始めたのが、老人が薬の力で若返り大暴れする『アゲイン』だった。

「楳図さんはホラーのほうがいいんじゃないですかって言われたんですが、大丈夫です、自信ありますと言い切りました。過去にギャグの入った『ロマンスの薬あげます!』という漫画を描いていて、けっこう人気があったんですよ。『ロマンス~』は惚れ薬を使っていて、『アゲイン』は若返りの薬。発想は単純ですけどね、物事は単純なほうが強いんです」

 その『アゲイン』の主人公、沢田元太郎の孫が沢田まこと。若返った元太郎はこのまことと大暴れするのだが、これが好評で、スピンオフの形で『まことちゃん』につながる。読者にとっては意外な転向に思えたが、『まことちゃん』は「グワシ!」が流行語になり、アニメ映画まで制作されるほどの人気作となった。ホラー漫画の大家は、ギャグでもすさまじい成功を収めたのだ。

「ギャグをやったのは、まわりの状況がそうだったから、やったということです。雑誌が怖いものを求めていないときにホラーを描いてもダメですし、無理にやるっていうのは、やめたほうがいいんですよ」

 このとき、楳図さんは40歳。その活躍は、その後もまだまだ続く。

■楳図かずお(うめず・かずお)
1936年生まれ。和歌山県で生まれ、奈良県で育つ。小学校4年生で漫画を描き始め、高校3年生のときにデビュー。『へび少女』などのヒットにより、ホラー漫画の第一人者となる。一方で『まことちゃん』などのギャグ漫画を手掛け、『漂流教室』では、小学館漫画賞を受賞。ほかにも『おろち』『わたしは真悟』『神の左手悪魔の右手』『14歳』などヒット作を連発。タレント、歌手、映画監督としても活躍し、18年『わたしは真悟』で仏・アングレーム国際漫画祭「遺産賞」を受賞。23年手塚治虫文化賞特別賞を受賞している。
■楳図かずお大美術展ーマンガと芸術の大転換点ー
開催期間=2023年6月10日(土)~8月6日(日)
開館時間=10:00~17:00(最終入場は平常時間の30分前)会期中無休
会場=テレピアホール
住所=愛知県名古屋市東区東桜1-14-25 テレピア2F
チケット=前売り券:一般1400円 中高生700円・当日券:一般1600円 中高生800円