1997年、NHK朝の連続テレビ小説『あぐり』のヒロインとしてデビュー。フジテレビ『WITH LOVE』、大河ドラマ『利家とまつ』など着実にキャリアを積み重ねる田中さんもその道筋では戸惑いや壁も感じたという。不安の時代を乗り越えた「CHANGE」を聞いた。【第1回/全4回】

田中美里 撮影/松島豊

 1月24日に公開された映画『美晴に傘を』では、自閉症による聴覚過敏の娘・美晴の母を演じている田中美里さん。出演オファーの段階で心を動かされた出会いがあったという。

「最初にこの『美晴に傘を』のざっくりとした内容が届いたんですが、劇中に出てくる絵本の文章がそこに書かれていて、それを読んだときに涙が止まらなくて……。すぐに“どうしてもこの役はやりたい”と思いました。それでお返事するときに、“ぜひやりたいです”というだけじゃなく、絵本を音読したものをスマホで録音して、一緒に監督に届けてもらいました。今の気持ちとしてこんな感じです、と。それくらいこみ上げてくるものがある絵本の文章との出会いでした」

 そして、この作品で俳優として刺激を受けたのは升毅さんの存在だった。

「20代の頃に一度升さんと『浪人街』という舞台でご一緒したんですけど、その時の升さんはエネルギッシュな感じで圧倒されるものがあったんです。でも、時を超えて今回、善次という役でお会いしたときに全く違うたたずまいを感じました。完成を観てより強く思ったんですけど、ただ座っている、ただそこにいるだけで、その存在は善次そのもので、役を演じているというよりはその存在に“なっている”という感じなんです。