岡本健一が舞台の世界に惹かれ続けている理由

 ムワワドの力強い作品は世界中から注目されるようになり、2016年には、かつて住むことができなくなった国である、フランスのパリ国立コリーヌ劇場の芸術監督に就任することになる。

「就任後の第1作がこの『みんな鳥になって』で、前3作よりも、民族や宗教、家族といった問題についてリアルに描かれています」

 中島裕翔が演じる主人公のエイタンは、ベルリン出身のユダヤ人。彼はニューヨークの図書館でアラブ人の女性・ワヒダに出会い、一目ぼれする。しかしエイタンの父親・ダヴィッドはふたりの交際を認めようとしない……。

「ぼくが演じるダヴィッドは敬けんなユダヤ教徒。イスラム史を学んでいるアラブ人のワヒダを受け入れることができないんですね」

岡本健一 撮影/有坂政晴

 日本に住んでいると、宗教が人と人とを隔てるということを、リアリティを持って表現するのが難しいように思うが……?

「確かに、そうした信仰や人種ということを、ぼくら日本人は根っこのところでは理解できていないかもしれません。でも逆に、そういう地域から遠く離れた日本人だからこそ、自由に演じられるという部分はあると思っています。
 それと、舞台という場所で俳優は、どんな人種にでも、どんな思想を持っている人にでもなれる。それも、ぼくが舞台という場所に惹(ひ)かれ続けている理由のひとつです」