音楽や芝居、アーティスト活動に没頭することで浄化されていった部分も

 17歳で味わった、どこにも届かない絶望……。

「とにかく、後で悔やまないように生きよう、生きなくてはならないと、母が教えてくれたような気がします」

 岡本は、乗り越えるために仕事に没頭した。

「ありがたいことにぼくには、音楽だったり、芝居だったり、やるべきこと、やりたいことがたくさんあったんですね。頭と身体をフルに使って、必死でやっている時間は、悲しみを忘れられる……というか、音楽や芝居以外のことを考える時間がなくなっていく。悲しみは消えないけれど、作品を作ることで浄化されるという感覚はありました。でも……いまも母の死を乗り越えられているかどうかは、わかりません」

岡本健一 撮影/有坂政晴

 56歳になるまで、何人かの大切な人の“死”を経験した。その度に心は悲鳴を上げたが、自身が前に進むことで乗り越えてきた。

「でもね、その人たちが生きていたときの記憶が、少しずつ少しずつ薄れていくんです。声や気配が思い出せない……というか、明確に出てこない。それがすごく寂しいですね。彼らのことを、旅立ってからの方が考えているのが。だったら、生きているときにもっと会っておけばよかった……」