一般にはあまり知られていなかった南インド料理専門の飲食店『エリックサウス』を大成功に導き、現在の若い人たちを巻き込み、本格カレー人気の流れを作る一翼を担った稲田俊輔さん。その稲田さんが今、ハマっているのが使う食材の種類をギリギリまで削ぎ落とした「ミニマル料理」。南インド料理からミニマル料理へ、大胆な「CHANGE」を見せる稲田さんに、これまでの料理の変遷を聞いてみた。
 

エリックサウス・稲田俊輔 撮影/三浦龍司

小学生の頃に作ったホテルのカレー

 自らをナチュラルボーン食いしん坊と称する稲田俊輔さん。その資質は、おいしいものに敏感な家族に囲まれて育つことで養われていった。

稲田「グルメとはちょっと違っていて、家族みんな食べることに真剣だったんですよ。父親もどこからともなく、おいしいベーコンやソーセージを買ってきたり。祖母も当時の女性としては珍しく食べ歩きに凝っていて、中華料理とかジャンル別にランキングを作って楽しんでいましたね」

 そんな稲田少年が自ら料理をするようになるのは、自然だった。

稲田「小学生のときに、家にあった『暮しの手帖』(暮しの手帖社)のバックナンバーでホテルシェフが本格カレーのレシピを紹介していたんです。小麦粉を炒めて鶏ガラで出汁をとったりするような。それまで固形ルーのカレーしか知らなかったので、びっくりしたんです。これを作りたいって親に直訴して、手伝ってもらいながら作ったら、ふだん食べているものよりおいしいカレーができたんですよ」

 これをきっかけに稲田少年は料理にのめりこんでいくのだが、興味をひいたのは、その味だけではなかった。

稲田「手間をかけて、普通の素材がおいしいものになるという過程に、興味があったんです。なんでもないものの組み合わせが、魔法のようにおいしいものになる。ある種のクリエイトですね」