衝撃的だった南インド料理との出会い
稲田「ただ、最初に食べたときは、わけがわからなかったんです。おいしいかどうかすらわからない。楽しみ方がわからない。その時点で料理も食もある程度のキャリアがあって、おいしいもののことはだいたいわかったつもりだったんですが、それを南インド料理に打ち砕かれたんです」
しかし、ここで引かないのが稲田さんだ。東京にある南インド料理店を調べ、あちこち巡り始める。そして、最初の店へ2回めに行ったとき、南インド料理の魅力に気づいたのだ。
稲田「あっ、わかった! やっと理解した! みたいな感じでした。その魅力をひと言で言うとビビッド。味も佇まいも鮮やかなんですよ。他の料理、それこそフレンチとかだと、いろいろなものを融合させたり、全体の味をひと塊にしたりするんですが、南インド料理はそれぞれの原型や個性が生々しく立ったまま。それに気づくと、急に他のカレーがつまらなく思えてしまって」
高まる南インド料理熱。ただ、まだまだ南インド料理は一般的ではなく、一部のマニアが注目しているレベル。自分の好きな料理を提供し続けてきた稲田さんだったが、それを自分たちでやっている店で展開するのは躊躇した。
稲田「自分の中でいちおう一線を引いて、南インド料理は趣味の世界でやって、仕事とは分けなきゃいけないと。いつまでもこっちに没頭していたら、本業の和食店にも支障をきたしますし」
それでも高まる南インド料理への想い。その想いに踏ん切りをつけようと、稲田さんは南インドへ行くことにした。