一般にはあまり知られていなかった南インド料理専門の飲食店『エリックサウス』を大成功に導き、現在の若い人たちを巻き込み、本格カレー人気の流れを作る一翼を担った稲田俊輔さん。その稲田さんが今、ハマっているのが使う食材の種類をギリギリまで削ぎ落とした「ミニマル料理」。南インド料理からミニマル料理へ、大胆な「CHANGE」を見せる稲田さんに、これまでの料理の変遷を聞いてみた。
 

エリックサウス・稲田俊輔 撮影/三浦龍司

川崎のカレー店をまかされ

 2007年、ダイニング居酒屋で、和食の範疇からはみ出る料理をのびのびと作っていた稲田俊輔さんに、転機が訪れる。川崎にあるカレー店「エリックカレー」の経営改善を依頼されたのだ。

稲田「川崎のビジネスビルにある、テイクアウト専門のインドカレー店でした。人気のある店でしたが、儲けが出ていなくて数字をなんとかしてほしいと、知り合いの知り合いから頼まれたんです。そこでコストカットの提案をしたんですが、それはできないとシェフが突然、来なくなってしまいまして。店を閉めるわけにいかないからと、急遽、僕たちでカレーを作ることになったんですよ」

 もともと「エリックカレー」のカレーは、スパイスのきいたインドカレーだったが、カレーであれば同じものでなくていいと、稲田さんは店のオーナーに言われ、1か月かけてカレー作りに没頭した。できあがったのは……。

稲田「好きにやっていいと言われまして。別に意識したわけじゃなかったんですけど、できたのが南インドカレーっぽかったんですよ。カレー自体は普通の日本米のごはんにカレーソースという、一般的なスタイルだったんですが。ちょうどその頃、南インド料理にハマり始めていて、その影響があったんです。この新しいエリックカレーが、けっこう評判になったんですよ」

 南インド料理は、スパイスの力で素材そのものの味わいを引き出すのが特徴。代表的なものが、長粒米のライスをカレー、豆スープのサンバル、スパイススープのラッサムやスパイスなどで和えた野菜などと混ぜて食べるミールスだ。シンプルで素材の風味が立った味わい。稲田さんはこれにハマったのだ。