一般にはあまり知られていなかった南インド料理専門の飲食店『エリックサウス』を大成功に導き、現在の若い人たちを巻き込み、本格カレー人気の流れを作る一翼を担った稲田俊輔さん。その稲田さんが今、ハマっているのが使う食材の種類をギリギリまで削ぎ落とした「ミニマル料理」。南インド料理からミニマル料理へ、大胆な「CHANGE」を見せる稲田さんに、これまでの料理の変遷を聞いてみた。
 

エリックサウス・稲田俊輔 撮影/三浦龍司

社内の人間にも説明せず

 2010年、現地に赴いて、あらためて南インド料理にハマってしまった稲田俊輔さん。店をやってみたいが、商売として厳しいのは明らかだった。そんなタイミングで、魅力的な出店オファーが来る。

稲田「八重洲地下街で、川崎でやっている南インド風の「エリックカレー」みたいなお店をやってくれませんか? というオファーが来たんです。悩みました。悩んだ挙げ句、エリックカレーも出すけれど、それに本格南インド料理をプラスした今の店、「エリックサウス」を始めたんです」

 八重洲側が望んでいたのは、あくまで南インド風のエリックカレー。だが、稲田さんはそれを勝手に進化させ、「エリックサウス」にしてしまったのだ。

稲田「エリックカレーも出すので、まぁ、ウソはついていないんです。出店を依頼してきたデベロッパーさんも、カレー屋さんと南インド料理屋さんの区別はついていないだろうし、説明してもわからないだろうなというのもあって。私が働く「円相フードサービス」の同僚も分かっていませんでしたね。普通に川崎でやっていたエリックカレーをそのままやると思っていて」

 とはいえ勘のいい一部の同僚は稲田さんの企みに気づいたらしいのだが。

稲田「川崎のままやればいいじゃないですかと言われたんですが、僕の中ではエリックカレーだけでは、東京の真ん中で通用しないっていう確信もあったんです。もうちょっと専門的な要素をプラスしないとって」