漫画好き&酒好きにとっていつまでも忘れられない名作といえる、酒うんちく漫画のパイオニア『BARレモン・ハート』が今年、40周年を迎える。作者である漫画家・古谷敏三さんの孫であり東京・大泉学園に実在する『BARレモン・ハート』の店主・古谷陸さんと、40周年記念作品の1冊を手掛ける“呑む文筆家”として知られる山内聖子さんのふたりが語り合う、THE CHANGEとは。【第1回/全5回】

古谷陸(左) 山内聖子(右) 撮影/三浦龍司

 西武池袋線大泉学園駅から徒歩5分。とあるビルの地下へ降りる。漫画やアニメのポスターがところ狭しと貼られた階段を降りきってウッディな扉を開くと、そこは「BAR レモン・ハート」。漫画に明るい方ならば「ああ! あのバー、実在したんだ!」とはっとするかもしれない。
 漫画家・古谷三敏さんが1985年から逝去した2021年まで『漫画アクション』で連載した、世界中のあらゆる"サケ”への愛とうんちくに溢れた、“サケ”を愛するマスターと客の人間模様を描く人気漫画『BARレモン・ハート』は、2015年10月に中村梅雀さん主演によりBSフジでドラマ化もされた。
 まだ日が高いいまは営業前。橙が灯るカウンター越しに出迎えてくれた若いマスターは、古谷さんの孫・古谷陸さんである。古谷さんが約36年前にオープンし、10年前に陸さんが経営を引き継いだ。
 棚に整然と並ぶボトルの数に圧倒されていると、ドアが開く。日本酒をこよなく愛する“呑む文筆家”として知られる山内聖子さんだ。
 酒が繋いだふたりは、10月10日に発売した『BARレモン・ハート 意外に知らない酒の基本知識』で山内さんが執筆、陸さんが監修を務めたことで親交を深めた。
 本書は漫画同様、日本酒を含め、世界各国の酒が網羅された"教科書プラスアルファ”な充実度と言える。取り上げるのはウイスキー、ブランデー、スピリッツ、本格焼酎、日本酒、ビール、ワインで「日本酒や本格焼酎ならまだしも、それ以外は知らないことばかりで、書く前は不安でしたね」と山内さんは話す。

山内聖子さん(以下、山内)「さまざまな酒のプロが手に取りたくなるような一冊にしたいと最初に話しましたよね」

古谷陸さん(以下、陸)「専門でひとつのジャンルに詳しいバーテンダーは多いんですが、派生すると“なんとなくは知っているけど、ちょっと掘り下げた質問されると……”ということもよくあります。そうするとバーテンダーの得意技があって、“ああ、あのお店の○○さんが詳しいから聞いてみなよ”と言うんですが(笑)、そういう意味ではプロが調べやすい内容になっているかなと思います」

山内「だから内容が薄いとダメだなと思っていたんです。制作中に陸さんから聞いたんですが、これまではいろんなお酒にまんべんなく詳しいマスターのお店が多かったけど、最近はどんどん特化型になっていると聞きまして」

「都心部は専門店化している印象ですね。網羅できないくらいお酒の数が増えているという背景も一因だと思いますが、時代の変化は感じます」