“呑む文筆家”山内聖子さんが最初に出会った日本酒

山内「当時はバーやイタリアン、沖縄料理店などいろいろな飲食店で働いていて掛け持ちもして、ゆくゆくはお店もやりたいなと思っていました。そのつどお店にあるお酒を飲んで覚えるという時期で、なかでも苦いリキュールがすごく好きだったんです。イエガーとか」
陸「シャルトリューズとか?」
山内「そうです。家で飲みたくて買ってました。なんかかっこいいなと思ったんです、洋酒が。オシャレじゃないですか」
陸「洋酒をよく見せるCMもいっぱいやっていましたよね」
ーーそんな中で日本酒に出会った瞬間は、なかなかセンセーショナルだったのでは。
山内「そうですね、びっくりしました。それでここまで来ちゃったので……おかしな話ですよね」
陸「最初に飲んだ日本酒は?」
山内「石川県の加賀・山中温泉の『獅子の里』という日本酒です。山中温泉という、北陸新幹線の加賀温泉郷駅からタクシーで20分くらいの山間の場所にある温泉街の酒蔵のお酒です。いまは純米蔵になってしまったので造っていませんが、大吟醸を飲んで“なんだこりゃー!”となったんです」
陸「いい酒に出会って自分の価値観を変えられた感じですね」
山内「そうですね。あと、日本酒に出会わなければ知ることのなかった自分の家系の話も知りまして。母方の祖母が江戸時代からの農家で、麹屋という屋号を持った米農家だったんです。その中でも婿養子に来たという曽祖父が結婚前に酒造りの蔵人をしていたみたいなんです。それを、日本酒の本を出してから親戚の集まりで“実は……”と教えてもらい、“えー! 日本酒と遺伝子レベルで縁があったんだ!”と。
そういうことを踏まえると、これは勝手な想像ですが曽祖父は婿養子に入って農家になってからもずっと酒造りをしたかったのかな? と思うことが度々あって。造り手を取材するたびに異様に胸が熱くなることとか、、。たまにいくら日本酒を飲んでも酔わないことがありますが、もしかしたら曽祖父が私の後ろにいて酒を飲み干しているから酔わないのでは?なんてことも考えたりしてしまいます(笑)」
陸「きっとおじいさん呑兵衛だったんでしょうね(笑)。『獅子の里』どんなふうに出会ったんですか?」
山内「バイトしていたお店の洗い場で、働き始めてから1、2週間くらいのころに“ちょっと飲んでみない?”と言われて、パッと飲んで、"うわーー!”って」