“これ美味しいから飲んでごらん”くらいのほうが入りやすい
ーーそんな場所で思いがけない出会いを!
山内「雑多な場所でした(笑)。それから20年経ってようやく一昨年に酒蔵を取材できたのは感慨深かったです。蔵元や蔵人の双方から酒を注がれ、わんこそば状態で日本酒をいただきました(笑)」
陸「そういうところで出会った酒のほうが記憶に残ったりしますからね」
山内「あまり前情報がなくいきなり飲んだので、味で入ったのがよかったのかな。いきなりパンッと投げつけられたような感じでしたから」
陸「相対的にそういう方のほうがその後趣味にしてくれますから。うちのお客様もそうですが、上司や先輩に連れられていらして、“俺はこのお酒が好きで、どうたらこうたら”とうんちくを語られて飲む酒のリアクションって、たいてい“美味しいですね”しかないんですよ」
山内「たしかに!(笑)そう言うしかない(笑)」
陸「気を遣う以外ないんですよ!(笑)しかも翌日本人覚えてないから!(笑)。それよりも、“これ美味しいから飲んでごらん”くらいのほうがカジュアルに入りやすくていいと思います」
山内「たしかにそのシチュエーションだとここまでになっていないかも。私は出会いの場に恵まれていましたね」
ふいうちの出会いだからこそ、その後の人生の道程にまで影響を及ぼしたのかもしれない。
(つづく)
古谷陸(ふるや・りく)
1990年9月13日生まれ。幼少期より祖父・古谷三敏の代表作『BARレモン・ハート』に影響を受け、学生時代からお酒の歴史や文化を学ぶ。高校・専門学校在学中にバンド「ゴールデンボンバー」のローディーとして「鶏和酢里紅」としても活動。2015年より東京・大泉学園の『BARレモン・ハート』を継承。現在は古谷敏三作品の管理を行いながら、バーテンダー、ブランドプロデューサーとして活動中。
山内聖子(やまうち・きよこ)
1980年生まれ、岩手県出身。呑む文筆家、きき(※漢字変換お願いします)酒師。22歳のときに飲んだひと口の日本酒がきっかけで魅力に開眼しライターの道へ。2011年より週1度、日本酒バー「后バー有楽」のママを務める。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』『夜ふけの酒評 愛と独断の日本酒厳選50』『日本酒呑んで旅ゆけば』(3冊共にイースト・プレス)、新刊に『酒どころを旅する』(イカロス出版)。