会社員の夢も、まだ捨てられていない
宮田「まずその前に、先ほどもお話しした通り、“人に本を読ませる”という目標もあって、出版社とか図書館司書への憧れはまだ生きているんです。実は、30歳までに今の仕事のやり方で生活ができなさそうだったら、本当にそちら方面へ就職しようと思っていると、すでに公言しているんです(笑)」
丸山「思い切りましたねー。そんなことを言っていると、出版社から“うちでどう?”なんて声かけられたりしません?」
宮田「反対に、小説の打ち合わせに出版社へ行っても、“中途採用の枠って……?”なんて思わず売り込んじゃうくらいなんですよ(笑)。正直、会社員の夢も、まだ捨てられていない部分もありますね……」

丸山「その病はですね、ずっと続きます(笑)。僕ね、今でもたまに仕事してる最中にぼーっと“そろそろ就職しなきゃ”と思ってしまう時ありますもん。自分で会社を経営したりしてるのに、どこかで就職しなきゃっていう意識は消えないんです。でも、これだけの能力があるんですから、まだまだ書き続けたい気持ちも強いでしょ?」
宮田「自分の書きたいものかぁ……そうですね、私の書く作品の“色”って、透明度が高い、水を混ぜたような話だなと自分で思っているんです。だから、もうちょっと“色”を濃くしたり、彩度を上げたり、反対に鮮やかでないものにしたり……そんなイメージの作品も、幅を広げて書けるようになったらいいなと思ってます」
丸山「宮田さんにとっての“色”というのは、人間の感情のことですよね。“濃い色”となると、人間味が強いとかそういうことなのかな。宮田さんの小説って、割と純文学的なというか、繊細できれいなお話が多い印象があったので、もうちょっとドロッとしたお話を書きたいとか、そんな感じでしょうか?」
宮田「そういうイメージも一つだと思います。でも、そういうドロッとした感情をまだ持ち合わせていないんです。だから、それを採集するところから始めないと、とは思っていまして(笑)」
丸山「僕がいろんな小説家の皆さんに話を聞くかぎり、誰もが“どういう色を自分に取り入れるのか”について往々にして悩んでいる印象があります。自分の中で今後、どんな色を混ぜていくのかというのは、生き方に連動していくことなんでしょう。読者の皆さんも、今後の宮田さんの作品を読んでいけば、宮田さんがどんな色を入れたのかは見えてくるのかもしれませんね」
宮田「私、何かを渇望したこともあまりないし、そこまで強く何かを望んだ経験も少ない人生だったんですよね。そういうものがあれば、また作風も変わってくるかなと思ってはいますが……」