印象に残った人物「この人が出てくると、自分も確実にテンションが上がってくる」
本作の中で印象に残ったキャラクターやシーンはありますか? とうかがうと、迷うことなく一人の登場人物をあげてくださった。
「子易辰也さん(図書館の前館長)が印象に残っています。この人が出てくると、自分も確実にテンションが上がってくるというのがわかるぐらい。楽しみながらしゃべっている自分がいました。
子易さんはミステリアスな存在で、生きているようだけど、はたして、どうなのかという謎に包まれている存在。実在しているようだけどいないかもしれないという人物で、この“温度感を感じるけど無機質なものかもしれない”というキャラクターに感情を伝えるときは、どんなものなのかを考えながら演じるのが、とても楽しかったです。
村上春樹さんが頭の中で再生する子易さんの声とは違うかもしれないですけど、収録する中で子易さんのしゃべり方が徐々に形作られてきたとき、自分の体の中からゴロンって出てきた感覚があったんです。朗読ならではの貴重な体験をさせていただいたなと思っています」
Audibleへの挑戦を語る井浦さんの表情からは、この作品への手応えが感じられた。
「村上春樹さんの頭の中の世界観をつむいでいく楽しさ。言葉の美しさ、オリジナリティのある独特な世界を最大限に楽しんでいただきたいと思っています。自分が朗読しているということは実はあまり重要ではなく、耳で村上さんの世界観を味わうという、ここでしかできないことを最大限に楽しんでほしいです。
どんな状況でも、どんな環境でも耳から聞いて、皆さんの心と頭に村上さんの文字の世界、景色を届けて、想像力をフルに使って楽しんでもらえたら嬉しいです」
いうら・あらた
1974年東京都生まれ。1998年、映画「ワンダフルライフ」に初主演。以降、映画を中⼼にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。最近の出演作品は大河ドラマ『光る君へ』(NHK)、『最愛』(TBS)、『無能の鷹』(テレビ朝日)、『DOPE 麻薬取締部特捜課』(TBS)、映画『ラストマイル』(2024)、『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(2025)などがある。アパレルブランド〈ELNEST CREATIVE ACTIVITY〉ディレクター。サステナブル・コスメブランド〈Kruhi〉のファウンダー。映画館を応援する「MINI THEATER PARK」と、活動は多岐にわたる。
【作品情報】
タイトル:『街とその不確かな壁』
著 者:村上春樹
ナレーター:井浦新
配信日:2025年10月21日(上巻)