それでも、救いになる物語を書きたい
ーーフィクションとノンフィクションで、文体もまったく違いますよね。
「手記はボールを直球でガンガンぶつけるような文体にしようとか、物語は自分の人生に引き込むような書き方をしようとか。もうひとつ、作中作もあるんですけど」
ーー登場人物に作家がいて、作品の一部が書かれていますね。
「それもそのつど文体を考えました。SNSの声もところどころに載せて、世間の否定派はこう言うだろうなとか、肯定派はこう出るだろうなとか。そうやって書いていると、どちらの主人公もつらい環境下ですごしているし、ひとりはどんなに同情されるような人生だったとしても許されない罪を犯している。それでも、救いになる物語を書きたいなと思いました」
そんな想いが、タイトル「暁星」を生み出したという。
「最初は『暁闇』でいこうかなと思ったんです。内容的に “闇の中をもがく” というイメージがあったので“闇”という字を入れたタイトルを考えていたら、“暁闇” という言葉にたどり着きました。調べてみると “夜が明ける前の一番暗い闇” という意味だとあり、深夜よりも夜明け前のほうが暗いんだとわかりまして。それってつまり、 “一番暗いここを乗り越えれば、陽が差すよ” ということではないかと解釈したんです。
“今が一番つらい” と思っている状態の人って、それが永遠に続くような気がすると思います。ですが、一番つらい=一番暗い、ということは、“夜明けが近い証拠なんだ ” と捉えることもできるなと。それで最初は『暁闇』にしたんです」
このタイトルを意識しながら、「今後つらいことがあっても頑張っていけるような 、明かりを灯すような1日を作ろう」と、救いとなる場面を書いた。
「でも『暁闇』だと、結局、陽が差さず闇のまま終わってしまうようなイメージに捉えられてしまうかなと。それなら、その闇の中に一番星を見つけて、夜明け前の光を差し込ませたかった。だからタイトルも、明け方の金星の別名である『暁星』にしたんです」
タイトルから最後の1文字まで考え抜かれた表現と構成力を持つ湊さんの作品を読んだ書店員さんたちからは、「二度目を読みました」「さかのぼって答え合わせをしました」など二度読み、三度読みしたという声があがるほど読んだ者の心に強く残る物語に仕上がったといえる。
(つづく)
湊かなえ(みなと・かなえ)
1973年、広島県生まれ。2007年『聖職者』で第29回小説推理新人賞を受賞。08年同作品を収録したデビュー作『告白』は第6回本屋大賞などを受賞し、売上累計300万部の大ベストセラーとなる。2014年、アメリカ「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のミステリーベスト10に、15年には全米図書館協会アレック賞に選出。2012年、『望郷、海の星』で第65回日本推理作家協会賞短編部門を受賞、2016年に『ユートピア』で第29回山本周五郎賞を受賞した。さらに2018年には『贖罪』がエドガー賞『ペーパーバック・オリジナル部門』にノミネートされた。
(作品情報)
『暁星』(双葉社)
著者:湊かなえ
発売中
定価:1,980円 (本体1,800円+税)
判型:四六判
公式サイト: https://fr.futabasha.co.jp/special/minatokanae/