「東海テレビ作品にハズレなし」

 最初はそんな扱いでしたが、継続は力なり……突如「東海テレビ作品にハズレなし」と白から黒にパーンと変わった。3本目の『死刑弁護人』がそうで、6本目の『ホームレス理事長 退学球児再生計画』で完全に逆転した印象です。

 さまざまな事情で高校をドロップアウトした球児たちと、彼らに再び野球と勉強の場を与えようとするNPO理事を追った『ホームレス理事長』はフジテレビが放送を断った問題作で、特に話題になったのが、理事長がディレクターに借金を申し込むシーン。最初の編集では間を省略してテレビ的に見やすくしていたのを、あえてノーカットでディレクターが戸惑う様子まで見せました。カメラマンも撮りながら迷っています。

 お金を貸すかどうか……見てるうちに観客も「自分ならどうするか」と迷う。すごく豊かな時間だったと思います。ディレクターの土方(宏史)は「あらためて見ると笑っちゃう」と言ってましたが、カメラマンの中根(芳樹)は泣きながら撮っている。今の時代、そういう生々しさこそ逆にテレビ的なのかもしれません。

 ところが、『ホームレス理事長』の興行は真っ赤っ赤の大赤字でした。劇場への責任を痛感する一方で、映画関係者からの評価はものすごく高くて、客が入らないから皮肉で言ってるのかと思うくらい (笑) 。

 最終的に東海テレビのドキュメンタリー映画は2億円以上の収益をもたらしたのですが、最初は手探りです。テレビの収益構造の逆手を取って、1本目の収支が出る前に2本目を始めた。「番組は先に売って収益を得る」「映画は後から興行収入が入る」と逆の構造なので、赤字が判明する前に次をやったんです (笑) 。

(つづく)

阿武野勝彦(あぶの・かつひこ)
1959年静岡県生まれ。同志社大学文学部卒業後、81年に東海テレビ入社。アナウンサーを経てドキュメンタリーの制作に携わり、ディレクターとして放送文化基金賞を受賞した『村と戦争』などを発表する。プロデューサーとしても多くの番組を手がけ、2010年からは劇場公開作として『平成ジレンマ』『死刑弁護人』『ホームレス理事長『神宮希林』『ヤクザと憲法』『人生フルーツ』『さよならテレビ』などを送り出す。2024年に東海テレビを退社し、現在はフリーの映像作家として活動中。著書に『さよならテレビ』がある。

映画『戦争と対話』
信越放送が手掛けた秀作ドキュメンタリーを手掛かりに、6本のオリジナルドキュメンタリーシリーズを制作。内田也哉子が戦没画学生の作品を集めた美術館「無言館」や、満蒙開拓青少年義勇軍として満州国へ送り出された10代半ばの少年たちの故郷を旅し、戦争とそれに連なる戦後社会のありようを考える。
映画『戦争と対話』は全国順次公開中
12月は鹿児島・ガーデンズシネマ、北海道・シアターキノ、広島・横川シネマ等で上映予定