今でも面白いものを書けているのか、自信はない

「相米監督のもとを離れて10年以上でしょうか。しばらくたって、『百円の恋』という映画の脚本が転機につながりました。いくつもの賞をいただきましたが、書き上げたときは賞を獲れるなんて、予感も自信もまったくなかったです。というのも、それまでさんざん書いてはダメだって言われ続けてきたので、自分には脚本家としての力はないんだろうと思っていたんです。『百円の恋』も、最初にプロデューサーに見せたときは案の定、“地味だし暗い”と言われて。何年も放置していました。

 その後、山口県で行われる周南映画祭の話を聞いて、“どうせゴミ箱に入っているだけだから”ってダメ元で応募したら、松田優作賞を獲ったんです。この受賞のおかげで、仕事が来るようになりましたね。それまで書き溜めていたものが、次々と映画やドラマになっていきました。

 うれしい、というよりは、たまたま話題になった脚本家だから依頼がくるんだろうって……僕、ネガティブなんですよ (笑) 。仕事にならない時代が長かったからか、今でも面白いものを書けているのか、自信はないんですよね。公開中の映画『Good Luck』 は、若手の映画監督を主人公にしたロードムービーですが、『百円の恋』の頃の僕自身の迷いも脚本に込めました。

 これまで書いてきた多くの脚本が実際に作品になるまで時間がかかりましたが、それでも書き続けてこれたのは、やっぱり一回でもいいから自分が書いたモノをカタチにしたいっていう思いがあったからだと思います」

つづく

足立紳(あだち しん)
1972年6月10日、鳥取県生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、01年『MASK DE 41』(村本天志監督)で脚本家デビュー。12年に『百円の恋』が第一回松田優作賞を受賞し、15年に映画化、日本アカデミー賞最優秀脚本賞、菊島隆三賞を受賞する。16年には『14の夜』で映画監督デビュー。19年『喜劇 愛妻物語』(脚本・監督)は東京国際映画祭にて最優秀脚本賞を受賞した。近年の主な作品に、連続テレビ小説ブギウギ』(23年・脚本)のほか、監督と脚本を務めたドラマ『それでも俺は、妻としたい』(25年・テレビ大阪)、『こんばんは、朝山家です。』(25年・テレビ朝日)などがある。

映画『Good Luck』
自称・映画監督の太郎(佐野弘樹)は、入選を果たした別府の映画祭に向かう。そこで不思議な女性・未希(天野はな)と出会い、一泊二日だけの旅をすることになり……。
「監督の撮りたいものを撮る」というコンセプトの別府発短編映画プロジェクトから飛び出した長編映画。足立監督が「せっかく自由に撮っていいんだから、迷いもそのまま入れて、普段だったらカットされるようなシーンも残しました。そこを楽しんでもらえたら嬉しい」と語る、多幸感溢れるロードムービー。
Ⓒ2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)
配給:ムービー・アクト・プロジェクトシアター・イメージフォーラムほか全国公開中