達成感よりも解放感のほうが大きかった

「妻の後押しもあって、2年弱ぐらいの間、『ブギウギ』の脚本に集中していましたね。長い執筆期間ではありますが、次々と展開を考えなければいけないので、飽きることはないんです、ただ、その長い間、映画の仕事ができないので、“周りはどんどん先に行っちゃうな”みたいな、置いてきぼり感はありました。書いている期間は、愚痴も多くなって夫婦仲も最悪でした (笑) 。だから、朝ドラの仕事が終わったときは、達成感よりも解放感のほうが大きかったですね。

 これからも、もちろん脚本家として書き続けたいし、監督として撮りたいテーマもたくさんあります。ただ、僕の場合は基本的に書くことが一種の苦行みたいなもので、監督としてみんなとワイワイ撮っているほうが数百倍楽しいんです。そういう意味では、“書く”という作業は無理やり感があるんです。ひとつの作品を書き上げたときも、“喜びや達成感がひとしお”とはならず……それは、どこかで手を抜いているからかもしれません。“俺の力だと、ここまでぐらいしか書けねぇ!”っていう自分がいるんですね。これまでお世話になっている出演者やスタッフには、失礼になっちゃうけど(笑) 。

 最近、世には優秀なチャットGPTがあるらしいじゃないですか。僕自身はコンピューターが苦手なので、AIに対しての妄想がすごく強いんです (笑) 。“どうせ俺が頑張っても、すぐにAIに抜かれちゃう時代がやってくる”って思うと、ほんとにやる気が失せてしまうんです。

 娘がAIを使いこなして何か作っていたり、息子が5倍速で映画を見ているのを見ると、なんだか虚しい気持ちになってくるんですよ。今は月3万円出せば、そこそこ優秀な機能がついたAIが使えるらしくて、社員一人雇うことを考えれば安いもんだ、僕も導入したい……ってことを妻に相談したら、怒られましたけどね (笑) 。

 ただ、僕の仕事って定年があるわけではないので、新藤兼人さんみたいな生涯現役って姿に憧れはあります。クリント・イーストウッドだって90歳を越えても、いまだに現役でしょ。ただ、今からイーストウッドを目指すなんて、思いません。そんなこと僕が言ったら、たぶん鼻で笑われちゃいますよ (笑) 」

足立紳(あだち しん)
1972年6月10日、鳥取県生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、01年『MASK DE 41』(村本天志監督)で脚本家デビュー。12年に『百円の恋』が第一回松田優作賞を受賞し、15年に映画化、日本アカデミー賞最優秀脚本賞、菊島隆三賞を受賞する。16年には『14の夜』で映画監督デビュー。19年『喜劇 愛妻物語』(脚本・監督)は東京国際映画祭にて最優秀脚本賞を受賞した。近年の主な作品に、連続テレビ小説『ブギウギ』(23年・脚本)のほか、監督と脚本を務めたドラマ『それでも俺は、妻としたい』(25年・テレビ大阪)、『こんばんは、朝山家です。』(25年・テレビ朝日)などがある。

映画『Good Luck』
自称・映画監督の太郎(佐野弘樹)は、入選を果たした別府の映画祭に向かう。そこで不思議な女性・未希(天野はな)と出会い、一泊二日だけの旅をすることになり……。
「監督の撮りたいものを撮る」というコンセプトの別府発短編映画プロジェクトから飛び出した長編映画。足立監督が「せっかく自由に撮っていいんだから、迷いもそのまま入れて、ふだんだったらカットされるようなシーンも残しました。そこを楽しんでもらえたら嬉しい」と語る、多幸感溢れるロードムービー。
Ⓒ2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)
配給:ムービー・アクト・プロジェクトシアター・イメージフォーラムほか全国公開中