「僕、がんになりました」
 2017年12月、自身のブログで、多発性骨髄腫という血液がんで「余命3年」であることを公表した写真家・幡野広志。以来、彼のもとには大量の人生相談が届くようになり、それらと真摯に向き合った言葉をまとめた書籍『なんで僕に聞くんだろう。』(幻冬舎)はベストセラーになり、この8月には『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』(ポプラ社)も刊行された。
 死を間近に感じながら、写真家·文筆家として活動を続ける幡野さんの人生の転機、「THE CHANGE」とはなんだったのだろうかーー。【第1回/全5回】

幡野広志 撮影/狩野智彦

 取材当日、部屋に入ると、幡野広志さんは取材者に対して穏やかな声で「よろしくお願いします」とひとことあいさつをしてくれた。せわしなさを微塵も感じさせず、ゆったりと落ち着いた雰囲気の中で、取材が始まった。

 幡野さんは、2017年に「余命3年」の末期がんを宣告されている。その際にどんな心境に変化はあったのかと尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「特に、大きな変化はありません。落ち着いていましたし、今さら慌ててもしょうがないな、と。ただ、僕よりも周りの人が変わっていった。とある友人からは、パワースポットと言われる海外の山脈が映った写真が届いて、“これを待ち受けにすれば、がんが治るらしい”というメッセージが書いてあったり。気持ちはありがたいけど、頼むからみんな落ち着いてくれって思いましたね(笑)」

 朗らかに語る様子で、悲壮感はない。なぜ、幡野さんはがんを受け入れることができたのだろうか。

「僕は、若いころから多くの挫折を経験した人間だったので、くじけずに受け入れられたのではないかと思っています。

 中には、“自分だけは助かるはず”と、事実から目をそむけてしまう人もいますが、それはあまりよくないですね」