絶望的になって、人間が嫌いになっていきました

 新井さんは、引きこもっていたという30歳から50歳までの間に、『宮本から君へ』『愛しのアイリーン』『ザ・ワールド・イズ・マイン』『シュガー』『キーチ!!』『RIN』『キーチVS』『SCATTERーあなたがここにいてほしいー』と、代表作を含む自身の作品の半分以上を生み出している。

新井英樹 撮影/冨田望

新井「この頃は、どうすれば社会をよくできるのか、世界を変えられるのか、少しでもマシになる方法はないか……みたいなことを考えながら描いていたんだけど、変わらないわ、と思って。それでかなり絶望的になって、人間が嫌いになっていきましたね」

 引きこもりを脱してから10年が経とうとしていた頃にも、「コロナ禍で、夜の商売をしている知り合いが苦しんでいるなか、はたから見たら呑気なことをして金を稼いで生活している、という後ろめたさが爆発」したというが、変化したことは、絶望と対峙しなかったことだ。

新井「なにか役に立てることがあるとしたら、俺みたいなマニアな漫画を読むことで、“生きるのが楽になった”とか、“死のうと思ったけど、今日はやめることにした”とか、ちょっとでいいから踏みとどまることができて、それが連続すればなにか変わるのかな、と。そういう使命感……じゃないな、趣味でやっているんだろうな」

 そして新井さんは、切々と言った。

「それがある限り、自分がやっていることが、完全にムダではないと思えるんだろうな」

【プロフィール】
■新井英樹(あらい・ひでき)
1963年生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、文具メーカーに就職、営業マンになるも漫画家を志して1年で退職。1989年に『8月の光』でアフタヌーン四季賞を受賞しデビュー。1993年、自身のサラリーマン時代の経験をヒントに描いた『宮本から君へ』で第38回小学館漫画賞青年一般向け部門を受賞。以降、『愛しのアイリーン』『ザ・ワールド・イズ・マイン』『キーチ!!』シリーズなど、掲載誌で異彩を放つ衝撃作を発表。2018年には『宮本から君へ』がテレビドラマ化され、映画『愛しのアイリーン』が公開。現在、新人女王様ふたりと、彼女たちを取り巻く個性的かつ魅力的なキャラクターによる人間讃歌『SPUNKー スパンク!ー』(KADOKAWA)を『コミックビーム』で連載中。6月12日に単行本1・2巻が刊行された。