終わらせられないという気持ちだけはあった
「戻りはしないと思っていました。伝えた時点で継ぐことはないと確信していました。一度やってみて戻るという、それぐらいのことで伝えるべき決断ではないだろうと。ただ、芝居をすごく好きだったから、情熱をすごく持っていたから、その道に進んだのかと聞かれると、正直、そこは分かってはいなかったんですけど」
安定した会社に勤め、さらには継ぐ家もある状態から、何の保証もない役者という道へ。そこへ飛び込むのに、当時の気持ちとして、「戻れない」ことははっきりと分かりながらも、絶対の「情熱」があったかは分からないというのは、とても正直だ。
「でも終わらせられないという気持ちだけはあったんです。ただ、終わらせるときはあるかもしれないとは思っていました」
――そうなんですか。成功している今、“終わり”を意識するときはありますか?
「考えるようになりました。前は考えてなかったですけどね。がむしゃらに目の前のことだけをやっていました。今もこうして続けさせていただいていますが、たとえば僕は演劇から始めたので、特に舞台について考えますね。
これまで1年に1本くらいはやってきたんですけど、今55歳で、10年後は65歳。体力的にも、あと何本できるだろうといったことはよぎります」
――そうすると、出演作を前より選ぶようになっていきますか?