毛がなかったけど、ケガなくてよかったね

「ここに(三角形のてっぺんにあたる、舞台奥の位置にいる松と正面の客席の間)、落ちているわけです。でもお客さんも、最初はどういう状況なのか分かってないんですよね。たか子ちゃんがいて、僕がいて、北村くんがいて。で、落ちてる。

 そしたら、(松さんである砂時計を示しながら)この子がクスクスと笑い出しまして。ほかのお客さんも、“これはもうアクシデントだな”と。そこで、僕は一礼して“これ”を持って袖に入って直してもらって、舞台に戻って一礼して、そこからまた始めました」

――(笑)なかなかのアクシデントですね。しかし舞台ならではです。

「絶対忘れないですよね。ここまで行ったら収拾がつかない。終わって、結髪さん(※髪を結う職人)に“すみませんでした”と言ったら、“毛がなかったけど、ケガなくてよかったね”と言ってくれました」

ーーおあとがよろしいようで。

「ピンチのときこそ笑いたいですね。あとで思い返したときにこんなことがあったって笑えるじゃないですか。だから絶対に笑いに昇華しようと思います。笑えるほどピンチやなとか。笑うようにというか、笑えるようにしようと心がけています」

 その日の観客は、一生この日のことを忘れないだろう。さらに、こうして何年も経って話を聞いたこちらも笑わせてもらった。

「いろんなピンチはあったとは思うんですけど、忘れていることが多いな。舞台だと本当に、声が出ないだとか、そういうことはいっぱいあるし、精神的なものが肉体に表れるってことはもちろんある。声が出ないことにしても、子どもは声をからさないですからね。大人になって、いろんなものがブロックされて、声が出なくなることもある。そういうときは休みますね。どうしようもない」