平成バブルの時代、1989年がキーワード

緊張気味の長嶋さんに、石川さんはこう声をかけました。

石川「僕は長嶋さんより別名義のブルボン小林さんの方をちょくちょく見てて、そっちの方が馴染みがあったんだよね」

長嶋「ああ、そうでしたか! 長嶋が小説で、アングラ・サブカルの道を行くのがブルボン小林なんです。知ってていただいて嬉しいです」

石川「いやいや」

長嶋「今日の趣旨をお願いします」

――(編集・平田)「石川さんは自伝をコミカライズした『「たま」という船に乗っていた』を、長嶋さんは小説をコミカライズした『いろんな私が本当の私』を、両作品とも担当編集が僕で『webアクション』で配信され双葉社で単行本化、という共通点があるので、お二人に『THE CHANGE』での対談をお願いしようと考えていました。という名目ではあるんですが、長嶋さんが前々から”石川さんに会いたい”とおっしゃっていて」

長嶋「ミーハーなもんで」

コナリ「そうだったんだ!」

長嶋「でも、ミーハーなファンが会って聞くことって『イカ天』の話とか、石川さんがこれまで何万回も答えてるようなことになっちゃいそうで……」

 長嶋さんの小説をコミカライズしたアンソロジー『いろんな私が本当の私』には、コナリさんも参加しています。その打ち合わせ中の雑談で、コナリさんが「イカ天」時代を調べているという話に。『凪のお暇』の凪のお父さんは青春時代に『イカ天』的な番組(作中では『タコ天』)出演を目指していたバンドマンなのです。
 担当編集の平田が、”それでしたら「イカ天」のことをよ~く知っている石川さんをご紹介しますよ”という流れになり、コナリさんは石川さんへの取材を敢行。コナリさんから”石川さん、すごいいい人で楽しかった!”という話を聞き”、”俺も会いたい!”と思いが募る長嶋さん。なぜならば長嶋さんは「イカ天直撃世代」で「たま」のファンなのです。

 しかし対談形式だと熱いファンの思いを一方的に伝えるだけで終わってしまう可能性がある。”一体どうすれば……。そうだ! コナリさんにも来てもらえれば石川さんも長嶋さんも知ってるし、話題が多岐にわたりそうだ!”という経緯で鼎談が実現しました。

長嶋(真面目な表情で)「今日はコナリさんが石川さんに取材して何を得たのかとか、そういうテーマで話せればいいな、と思ったんです」

コナリ「え、なんか、すごいテーマですね」

石川「いやいや、何かを得られるような内容だったかな。当時のバンド事情を聞きたかったと思うんですけど、『たま』は特殊なバンドだったんで、典型的なロックバンドじゃなかったから」

コナリ「いやいやいやいや!」

長嶋「聞きたいのはどんなギターを使っていたかとか、そういうことじゃないもんね」

コナリ「そうです、打ち上げの時どんな話をしてたのかとか、どんな所に飲みに行ってたのかとか、当時のバンドマンの日常生活だったので」

長嶋「『凪のお暇』で89年がキーワードになったんですね」

コナリ「そうです。平成バブルの時代です」

石川「ちょうど、僕が『イカ天』に出た年ね」

長嶋「コナリさんは、年齢的に89年はビビットなものはないですよね」

コナリ「そうです。親が見てたテレビから流れてくる音をなんとなく覚えてる感じですね。当時のCMとか」

長嶋「リゲインとか?」

コナリ「そうそう、そうです」

長嶋「”24時間戦えますか~”」

コナリ「今だったらとんでもないことになりますよね」

長嶋「ああ、今は言えないよね、そんなこと」

緊張気味にスタートした鼎談だが、すぐに話は弾んでいった