「たま」は19年だったけど、「パスカルズ」はもう28年目

コナリ「石川さんは、『たま』を長く続けたいなって思ってたんですか?」

石川「楽しかったから長く続いたってだけというか…」

コナリ「思いはみんな一緒だったってことですね」

石川「ミュージシャンとして食っていこうって思ったことがそもそもなくて、もともと音楽聴き始めたのが『ビートルズ』だったんですけど、アングラを聞き始めて好きになったミュージシャンが三上寛さんとか『突然段ボール』ってバンドで、僕がすごい好きで憧れてるバンドの人たちがそもそも大して食えてないんだよね。だから僕もバイトしながら好きな音楽をライフワークとしてやっていくのかな、ぐらいにしか思ってなかったですね。『たま』は19年しかやってないけども『パスカルズ』は1995年から28年やってますからね。

――(編集・平田)「『凪のお暇』の劇伴が『パスカルズ』になった経緯はお聞きになってるんですか?」

コナリ「プロデューサーの方が多分……」

石川「そうですね。前田敦子さんの『毒島ゆり子のせきらら日記』で『パスカルズ』が劇伴を担当して、わりと評判が良かったんでっていう流れだと思います」

コナリ「すごいピッタリな音楽で! 今でもサントラを聴くと泣いちゃいますよ~」

長嶋「11巻に入る89年当時の街の風景の資料はどうしてるんですか?」
コナリ「”89年””町並””動画”とかで検索すると、いろんな町並が見られるんですよ。すごい面白くて」

石川「便利になったね。昔だったら資料探すの大変だったもんね」

長嶋「漫画家さんは絵にしなきゃいけないから大変ですよね。小説だと”男は車から降りた”とか書けばいいんだけど、漫画にするためには、何の車にするかとかも決めなきゃいけないもんね」

石川「『イカ天』会場へ向かう車のシーンがあって、作画の原田高夕己さんから”車の車種と色はなんでしたか?”って聞かれてたんだけど、覚えてなくて……」

長嶋「やっぱり。漫画って全部絵にしなきゃいけないんですよね……。コナリさんは僕の『もう生まれたくない』を漫画にするとき、絵では苦労されました?」

コナリ「背景とかってことですか? まあまあそうかな。でも私の絵柄はイラストっぽいので、そこまでカッチリでなくても……あ! 空母は大変でした!」

長嶋「あ、そうだ、空母を描かなきゃいけなかったんだ!」

コナリ「空母を描くことなんて無いと思ってたから……」

石川「漫画に出てくる空母の中のポストの資料はあったんですか?」

コナリ「”アメリカ””ポスト”で検索したりしました」

長嶋「言われなければ分からない地味な見所だね!」

コナリ「車はミニカーを取り寄せて写真に撮ってトレースしたりするんですけど、空母はデカすぎてプラモデルが結構高いし、置き場所も無いと思って」

長嶋「自分の文章を漫画にしてもらうと格別なものはありますね。石川さんもそうだったんじゃないですかね」

石川 (しみじみと)「僕、嬉しかったですよ。自分が漫画のキャラクターになるなんてね」

コナリ「そんなに喜んでいただけると原田さんも嬉しいですよね」

つづく

レトロな喫茶店のテーブルに置かれた作品たち

■石川浩司(いしかわこうじ)
1984年、「たま」を結成。担当はパーカッション。89年の「イカ天」出演を機に翌90年にメジャーデビュー。2003年の「たま」解散後も精力的に音楽活動を続ける。

■長嶋有(ながしまゆう)
2002年、「猛スピードで母は」が第126回芥川賞受賞。2007年、「夕子ちゃんの近道」が第1回大江健三郎賞受賞。2016年、「三の隣は五号室」が第52回谷崎潤一郎賞受賞。

■コナリミサト(こなりみさと)
「凪のお暇」が「このマンガがすごい!2019」オンナ編第3位、「第65回小学館漫画賞少女向け部門」受賞、黒木華主演でテレビドラマ化。秋田書店「Eleganceイブ」にて連載中。