『さよなら人類』で60万枚の大ヒット、伝説のバンド『たま』のパーカッションとして知られる石川浩司。02年に『猛スピードで母は』で芥川賞を受賞、07年に『夕子ちゃんの近道』で大江健三郎賞を受賞した小説家・長嶋有。黒木華主演でドラマ化され、累計500万部突破の大ヒット作『凪のお暇』作者である漫画家・コナリミサト。豪華すぎる面々が語りあう「人生を楽しく生きるための特効薬」と、3人の『THE CHANGE』とはーー。【第4回/全7回】

長嶋有 撮影/有坂政晴

原作の自伝よりも情報量が多いと評判の漫画版『「たま」という船に乗っていた』。その理由は石川さんの脳内で異変が起きているからです。それは一体?

 鼎談スタートから1時間以上たち、外も暗くなってきましたが、まだまだ話は尽きません。

石川「小説が映画化になった時の気分はどうですか?」

長嶋「映画化ももちろん嬉しいけど、映画がきっかけで、文庫を読んでくれたりするのが何より嬉しいです。でも、娘を嫁がせたお父さんみたいな寂しさはあるな」

コナリ「長嶋さんは小説がいっぱい映像化されてたから、『凪のお暇』がドラマになるときにどんな感じなんですかって聞いたら”いっぱい撮影見学、行った方がいいよ”って言われたんですよ」

長嶋「ファミリーみたいになった方がいいよってね」

コナリ「それを聞いて、映像化していただいた3作品は全てめちゃくちゃ現場に行きました。お陰でみなさん仲良くしてくれて」

長嶋「『ジャージの二人』が映画になったときは、堺雅人さんがフレンドリーにしてくれて”飲みましょうよ~”みたいに気安くしてくれて、嫁がせた寂しさがなくなりました。結婚式って父親を立てるじゃん」

コナリ「あ~、なるほど、そういう精神なのか。寂しくさせないように、”お義父さん、たまにはうちにも飲みに来てくださいよ”ってことなんですね」

長嶋「そうそうそうそう!」

――(編集・平田)「映像化のときの気持ちを聞くと、漫画化のときと全然違いますね」

長嶋「実写化と違って、”どんどんやってくれ!”って感じだよね。根が漫画好きだから、『いろんな私が本当の私』のあとがきにも書いたんだけど、漫画家になれなかったから活字をやってるだけで」

――(編集・平田)「”やはり俺のかいていたのは漫画だった”ってあとがきを読んで、ちょっとグッときちゃいました」

長嶋「漫画ってイズムみたいなことですよね。漫画のように生きたいし、迷ったら漫画のようにしたいということですね。漫画という概念を理解した上で、手段として小説を書いてます」

石川「僕は歌詞を書くときになるべく絵が思い浮かぶような歌詞を書けるのがベストだなと思ってます。詞から喚起されて、聞く人それぞれが風景を思い描いているような。まだ全然できてないけど」 

長嶋「できてますよ! もっと言うと、聞いた人が感触を感じるんですよ。『リヤカーマン』を聴くと、軍手の感触を感じるんですよ。『まちあわせ』も、ハムカツの粉が口のまわりについてるぞって、指差しで指摘する歌詞なんだけど、生々しい感触があるんだよね。『学校にまにあわない』は夢を見ているような臨場感があります」

石川「『学校にまにあわない』は完全に創作なんですけど、夢って連続性があるじゃないですか。最初と最後で全然話が繋がってないんだけど、流れるような夢の連続性を歌詞に書きたくて」

長嶋「石川さんが望む絵のようなものを受け取れているかどうかは分からないけど、臨場感がすごいって言うか、独特な感触だよね」