「たま」が好きすぎて原作のエッセイよりも情報量が多い

長嶋「逆に『「たま」という船に乗っていた』は原田高夕己さんという1人の漫画家が、心から「たま」が好きで、ガッツリ「たま」の歴史を描ききるぞっていう気合が伝わってきますよね。『「たま」という船に乗っていた』は、原田さんが追加で取材もしてます?」

石川「してますね。原作以外で当時のファンクラブの会報の情報も全部取り入れてるから、原作に書いてないこともいっぱい描いてあります」

――(編集・平田)「ネームが上がると絵が入ってるから視覚的になって石川さんの記憶が甦ることがかなりの確率であるんですよね」

石川「うんうん」

コナリ「不思議!」

――(編集・平田)「石川さんが急に思い出したエピソードをネームの2稿目に入れ込んだりしてますね」

コナリ「すごい面白い!」

――(編集・平田)「書評で”原作のエッセイよりも情報量が多いってどういうことだ?”て書いてありましたね。

コナリ「確かに! 大好きな人たちを漫画に描くって、どんなお気持ちなんでしょうか」

――(編集・平田)「”この漫画を描くために漫画家になったのかもしれない”って原田さんはおっしゃってます。柳原さん脱退のくだりを描き終えたところなんですけど、泣きそうになったそうです。最終回どうなってしまうのか、心配です」

長嶋「後編ももう、佳境だよね。でも、『たま』が3人になってからも『パルテノン銀座通り』とかありますよね。原田さんの絵柄も面白いですよね、藤子Ⓐパロディーが軸になりつつ、色んな漫画のパロディーが入ってますよね。漫画愛がありますね」

――(編集・平田)「冒頭からすでに『まんが道』のパロディーですからね。『まんが道』と同じように、何者かになろうとしている人が読んで”頑張ろう”と思えるような漫画にしたいですね」

長嶋「『まんが道』が正にそうだもんね。『まんが道』ってさ、読むとホントに元気にならない?」

コナリ「私、『まんが道』を読んだのが遅くて、25歳とかで、ねむようこちゃんの家に泊まりにいったときに、”コナリちゃん、『まんが道』読んでないの? ありえない!”みたいな感じで薦められて、読み始めたらめちゃめちゃ面白くて止まらなくなって一晩中読んでましたね」

『まんが道』は藤子不二雄先生の『THE CHANGE』が描かれている、漫画家を志す者にとってのバイブルだ。

石川「バンドマンが、『ビートルズ』聴いたことがない、みたいなことなのかな。しかし2023年になって、『ビートルズ』と『ローリング・ストーンズ』の新曲が出るなんてね。やっぱり60年代70年代がすげえ時代だったなって思うよね」

つづく

■石川浩司(いしかわこうじ)
1984年、「たま」を結成。担当はパーカッション。89年の「イカ天」出演を機に翌90年にメジャーデビュー。2003年の「たま」解散後も精力的に音楽活動を続ける。

■長嶋有(ながしまゆう)
2002年、「猛スピードで母は」が第126回芥川賞受賞。2007年、「夕子ちゃんの近道」が第1回大江健三郎賞受賞。2016年、「三の隣は五号室」が第52回谷崎潤一郎賞受賞。

■コナリミサト(こなりみさと)
「凪のお暇」が「このマンガがすごい!2019」オンナ編第3位、「第65回小学館漫画賞少女向け部門」受賞、黒木華主演でテレビドラマ化。秋田書店「Eleganceイブ」にて連載中。