作詞家・森雪之丞の世界ははてしなく広い。『ドラゴンボールZ』から『キン肉マン』、『プリキュア』といったアニメの楽曲から、布袋寅泰氷室京介、さらにはキャンディーズシブがき隊といったアイドルの曲も手がけてきた。激動の時代を越え、48年目を迎えたレジェンド作詞家の人生の転機とは?【第5回/全5回】

森雪之丞 撮影/冨田望

 シブがき隊『NAI・NAI 16』。1992年リリースの名曲で、ないないづくしの歌詞を覚えている人も多いだろう。なかでも耳に残るのが「ジタバタするな」と警告する内容と「世紀末」という単語。こうしたオリジナリティあふれる歌詞が生まれた背景は、どういうものだったのだろうか。

「シブがきはね、実験的な要素のある歌詞をいっぱい書かせてもらいました。トシちゃん(田原俊彦)やマッチ(近藤真彦)は、事務所が求めていたイメージがあった。でもシブがきは後発だったから、自由だった。いわゆる放し飼いというか(笑)。

 ソニーから出していたのだけれど、レコード会社の方が主導権を持っていたんです。もしも『アイドル用語辞典』というものがあったら、そこには絶対に載っていない言葉をシブがきに歌わそうって考えた。世紀末というフレーズもそうだし、テーマがよくあるアイドル風ではない。そういう実験的な要素をいろいろと試せたんです」

――ほかにも、印象深い作品はありますか?

「実験でいうと、“ゾッコン”‘(『Zokkon 命』1983年)とか“べっぴん”(『Hey! Bep-pin』1983年)も、もともとは古い言葉だけれど英語に近い言葉だって思って使った。ずっと日本語はロックのリズムに歌詞が乗らないって言われていた時代があったんです。

 たとえば、4分音符だとダンダンって(テーブルを叩いてリズムを取りながら)、“き・み”とか、“ぼ・く”って古いアイドルは歌っていた。でも“ゾッコン”とか“べっぴん”っていう促音や撥音の入った音節の多い、つまり英語に近い言葉を探すことで、上手くリズムに乗せることができた。そこから、新しい世界を作り出すのも実験の一つだったんです」