”もう後がない”という焦りが小説家への道を開いた
ーー本気でやる、というのは具体的にどんな思いを込めていたのでしょう。
「”もう後がない”と自覚することですね。小説がダメだったら……というとき、ほかのなにかが思いつかなかった」
ーーシナリオの世界に戻る、という選択肢もなく?
「そうですね。年齢がいってしまうし。一方で、ラジオドラマの世界はすごくほんわかして、丁寧に作品を作るいい世界なんですよ。特にNHKのラジオドラマは、海外の賞を毎年1つは絶対に獲るような視野の広い場所でした。ラジオドラマの作家さんは年配の方が多くて、テレビよりも年齢は気にしなくていいし。
同時に、ベテランの素晴らしい作家さんがたくさんいるから、ここで活躍するのは難しいだろうなとも思いました。だからもう、”後がない”。小説もダメで、シナリオの世界もやめたら、全然思い浮かばなかったんです」
そうして自分を追い込み書き上げた『はじまらないティータイム』(集英社)ですばる文学賞大賞を受賞。晴れて小説家としての一歩を踏み出すこととなった。が、2冊目の『東京ロンダリング』まで3年を要した。
「文芸誌『すばる』(集英社)には半年に1本くらい書いていて、ほか2社からお話をいただきぽつぽつと書いていましたが、2冊目まで遠かったんですよね。のちに、すばる文学賞の当時の選考委員だった星野智幸さんたちが心配していらっしゃったと聞きまして。“原田さん、なかなか次の本が出なくて、ちょっと心配”みたいな優しい心配をしていただいていたそうで」