バトンを引き継いだ“理解者”吉田鋼太郎とともに演じ抜く

――泣いて練習したときから12年。今度は、吉田さんが蜷川さんから芸術監督を引き継いだ「彩の国シェイクスピア・シリーズ」でハムレットを演じます。

「鋼太郎さんと最初にお仕事をしたのは『デスノート THE MUSICAL』(2015)のときでした。鋼太郎さんが死神リュークで、僕は主人公のライト。そのときからずっとお世話になりっぱなしです。ドラマでもご一緒しましたし、いろいろと悩んでいることを相談に乗ってもらったりしてきました。

 蜷川さんが亡くなって、吉田さんがこのシリーズを引き継いだ1作目が『アテネのタイモン』(2017)。鋼太郎さん、竜也さん、横田栄司さんという錚々たる先輩方の中に入っての初参加。僕はそれが初めてのシェイクスピア劇だったし、わからない事ばかりで毎日やっていました。そしたらある時、鋼太郎さんが演出をガラッと変えたんです」

――というと。

「僕は武将の役だったんですけど、あるとき追放の刑を受けます。それに逆上して、“いつかこいつら全員に復讐してやる!”みたいに決めて国を発つんです。そのとき、国に対して、世界に対して、神に対して怒って叫ぶようなシーンがありました。普通は舞台で暴れまわるイメージですよね。でも鋼太郎さんは僕がひとりで客席に登場して、そこで芝居を完結させるようにしたんです。誰も思いつかないド肝を抜かれるようなシーンになりました」

――屈指のシーンとして評価を受けましたね。吉田さんは蜷川さんとはまた違い、頼れる兄貴的な存在なのでしょうか。

「そうですね。僕が考えていることはだいたい見抜かれているでしょうし(笑)。あ、鋼太郎さんが僕のことを“俺の若いころにそっくりだ”とかって言うんですけど、それは嬉しくないんですけどね」

――(笑)。

「それに僕は芝居のために人生を捧げるみたいな感じじゃなくて、本来はすごく穏やかに生きたい人なんです。ただ、僕のいま置かれている状況や、芝居に悩んでいるといった葛藤が鋼太郎さんには分かるのだろうと思います」

――いま置かれている状況、ですか?

「自分で自分のことを中途半端だと感じている。鋼太郎さんも、今のようになるまではずっと悶々としていたそうなんです。“全員、なぎ倒してやる!”と思っていたらしいです。

“まだまだこれから”だという僕の気持ちを分かってくれているとも思うし、僕に足りないことや弱いこと、逆に強みも分かってくれているのかなと感じます」

柿澤さんから、吉田さんへの信頼が伝わってくる。蜷川さんの魂が残り続ける、居残り練習をした同じ場所で、吉田さんとともにどんな『ハムレット』を生み出してくれるのだろう。

柿澤勇人 撮影/冨田望

柿澤勇人(かきざわ・はやと)
1987年10月12日生まれ。神奈川県出身。
2007年に劇団四季『ジーザス・クライスト=スーパースター』でデビュー。
劇団四季退団後は、映像作品にも活躍の場を広げる。主な出演作に舞台『海辺のカフカ』『デスノート THE MUSICAL』『メリー・ポピンズ』『ジキル&ハイド』『スクールオブロック』『オデッサ』、映画『鳩の撃退法』、ドラマ『真犯人フラグ』『不適切にもほどがある!』など。2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で源実朝を好演したのも記憶に新しい。第31回読売演劇大賞にて優秀男優賞を受賞。5月に上演される彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』でタイトルロールのハムレットを演じる。

●作品情報
彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』
【原作】:W.シェイクスピア
【演出】:吉田鋼太郎
【出演】:柿澤勇人、北香那白洲迅、渡部豪太、豊田裕大、正名僕蔵、高橋ひとみ、吉田鋼太郎 ほか
【HP】https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/98587/

 

続きはこちら!