ミステリーというジャンルは細かく分かれている

川西「『屍人荘の殺人』はホント面白かった。ユニコーンの曲にも『Hystery-Mystery』っていう全然ミステリーじゃない曲があるんだけど(笑)、これはどうやって考えてるんだろうって思った。前に翔吾君と作家はどうやってストーリーを考えるのかという話をしたことがあったよね」

翔吾「最初からプロットを書いていく人と、そうじゃない人がいるっていう話でした。昌弘さんはどっち?」

昌弘「僕は完璧に書きますね」

翔吾「ミステリーはそうじゃないと無理だよね。でも、作家の中には、犯人も決めずに書いている人がいるとか」

昌弘「います、います。とにかく死体をどーんと出して、事件を起こしてから、真相は何なんだと考えさせるようなタイプの方もいますね。でも、それはどちらかというと、サスペンスの考え方なんです。僕が書いているのは、どう伏線が張られて、どう事件が解決していくかというのを楽しまれている方が多いので、あまり行き当たりばったりにならないようにはしています」

翔吾「ミステリーというジャンルはまた細かく分かれるんですよ。“本格ミステリー”“新本格ミステリー”とか。どう違うの?」

昌弘「大きなミステリーのジャンルの中の、特殊なものが“本格ミステリー”なんです。ミステリーって、殺人事件が起きなくても、ミステリーになるんですよ。何か謎があって、それはあの人が過去にああいうことをやっていたからだとか、あの人の本当の気持ちはこういうことだったとか、そういうことがあれば全部ミステリー。そうじゃなくて、犯人のアリバイを調べたり、物理的なトリックを使って殺人が行われていた、疑わしい人が何人かいるなかで、犯人はこの人しかあり得ない、そういう謎解きを楽しむのが“本格ミステリー”なんです」

翔吾「ゲームに近いっていうこと?」

昌弘「そうですね、遊戯性が高いです。そのぶん、やらなくてはいけないとされている決まりごとが非常に多い。最後にこの人が白状したから犯人になったけど、別に他の人でもできたんじゃないのっていう、そういうのを突き詰めていくジャンルですね。なので、プロットとかをちゃんと作っておかないと、後々つっこまれます」

翔吾「だから、あのジャンルは物申す系の読者がいるのか(笑)。いるよね、“これは本格じゃない”とか言う人が」

昌弘「でも、そういう人たちは、本を買って読んでうるさく言うから、支えてくれているんですよ」

翔吾「そういう意味では、川西さんは時代小説においてはいいお客様(笑)。うるさいことも言わないし、いつも褒めてくれて、僕のモチベーションを上げてくれます」

川西「いやいや、ホントにすごいから言ってるんですよ。でも、密室のミステリーって、もう出尽くしてると思うけど、みんな書くでしょ」

昌弘「僕らは作家ではあるけど、読者でもある。みんな、誰も読んだことがないものを書いてみたいっていう野望を抱えてますね」

(つづく)

■川西幸一(かわにし・こういち)
1959年広島県生まれ、広島県在住。ロックバンド「ユニコーン」のドラマーとして1987年にデビュー。「大迷惑」「働く男」などのヒット曲をリリースする。1993年2月にユニコーンを脱退し、バンドは同年9月に解散。2009年にユニコーンが再始動。最新アルバムは「クロスロード」。時代小説の大ファンとしても知られ、年間百冊近くを読破する。

■今村翔吾(いまむら・しょうご)
1984年京都府生まれ、滋賀県在住。2017年に発表したデビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。『童の神』で第160回直木賞候補、第10回山田風太郎賞候補。『八本目の槍』で「週刊朝日」歴史・時代小説ベストテン第1位、第41回吉川英治文学新人賞を受賞。『じんかん』で第163回直木賞候補、第11回山田風太郎賞受賞。2022年『塞王の楯』で第166回直木三十五賞受賞。最新作は『戦国武将伝(東日本編・西日本編)』(PHP研究所)。

■今村昌弘(いまむら・まさひろ)
1985年長崎県生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、放射線技師として働きながら小説を書き、2017年『屍人荘の殺人』で第27回九鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。同作は「このミステリーがすごい」で1位を獲得し、神木隆之介、浜辺美波の主演により映画化された。ほかに『魔眼の匣の殺人』、『兇人邸の殺人』、『ネメシスI』。最新作は『でぃすぺる』(文芸春秋)。