現地でロケをさせてもらうことの大切さ

――里香として弾くという部分に関してはいかがでしたか?

「実際、そこが難しいところでした。弾けるからこその難しさがやっぱりありました。何が里香らしいのかと言うと、やはり曲。そこに一番彼女らしさが出る。里香のことは、映画の中では多くは語られていないんですよね。もと恋人の淳也さん(山村隆太)との繋がりにしてもそうです。映像にはなっていない部分がある。だからこそ語られていない部分を、音楽で埋めることができたらいいなと感じながら作っていました」

※『風の奏の君へ』は、岡山県美作地域を舞台に、ピアニストの里香と、茶屋店を営む淳也、そして弟の渓哉(杉野遥亮)との関係を中心に見つめていく人間ドラマ。

――美しい地域映画でもあります。実際に美作で撮影されたとか。

「それこそ美作で撮影しなければ、この役柄をちゃんと実感を持って演じられなかったと思います。その場所での空気感って絶対にあり、曲も作れなかったと思います。風とか、土地の匂いとか。現地でロケをさせてもらうことの大切さは、今回も改めて感じました。それから渓哉くんや淳也さんとのやりとりも、台本で読んでいるだけでは感じられないことがたくさんありました」

(c)2024「風の奏の君へ」製作委員会

――里香は、一度美作を訪れて離れ、2年後にある思いを胸にふたたび土地を訪れます。

「2年分の思いを抱えて美作に来るというのが、この物語が動き出す部分だと思いました。どういう顔をして、淳也さんの前に現れるのか。考えれば考えるほど難しいと思いました。でも撮影の初日には、そうしたことを考えつつも、忘れる勇気が必要なんですよね。だからとにかく、今日私はここに初めて立ちましたと。そこで何を思うのか。余白を持って臨みました」

――そこまでに準備をしながら、現場では忘れる。その勇気を持つ。

「考えなしに行くということではなく、考えて悩んで、いろんな答えを自分の中では持っていくんですけど、実際にそのときその場で何を感じるかは、やってみなければわからない。なので、そこまでに考えていないわけではないんですけど、その考えを一度置くことをしながら撮影に臨んでいました」

――それはどの役でもそうですか?

「ドラマの場合は話数がある分、そんなに時間が取れない事もありますけど、下調べや準備をして、いろんなことを考えてから、勇気を持って忘れます。なかでもこの作品では、美作の広大な自然の中で何を思うかが大事だったと思います。この物語は、結構意外なことが起こったりするんですけど、時間はゆっくり流れている印象があるんです。それにはこの風景、空気感がやっぱり必要だと感じました。その空気を感じられる時間をもてたことも、今回は贅沢でした」