日本の食材のポテンシャルはとても高い
瞳をキラキラ輝かせながら、楽しそうにルイ氏が提案する。すると、思わずこちらも、前のめりに話を聞き入ってしまう。
「皆さんが想像する以上に、日本には日本酒のような優れた食品が多いです。たとえば、現在、フランスでは日本産のゆずが大きな支持を集めています。隠し味として使用されるだけでなく、ゆずシャーベットやゆずのスフレというようにデザートとしても人気が高い。日本の皆さんが気付いてないだけで、日本の食材のポテンシャルはとても高いんですね」
こうした視座を持つのは、フランスと日本、両国にルーツを持つルイ氏だからこそ。父であるジョエル・ロブションも、息子の意見に耳を傾けた。
「優れた日本酒があれば、飲んでみるようにすすめました。気に入ったお酒は、自分のお店でも提供するようになりましたね。お酒だけではなく、お茶など美味しいと思ったものは積極的にすすめていました。父も大の日本好きでしたから」
2018年4月に、日本酒獺祭を製造する旭酒造とコラボレーションしてパリ8区にオープンした『獺祭 ジョエル・ロブション』の着想は、息子からの影響も多分にあったのだろうか。
しかし、その4か月後――、ジョエル・ロブションは他界してしまう。
「がんを患っていました。ただ、その年は来日もしていたし、寝込んでしまって身動きが取れないなんてことはなかった。それだけに、突然の訃報に、私たちも困惑しました」
しかも、「何の引き継ぎもないまま亡くなってしまった」と明かす。世界各国に20店舗以上も自らの名を冠したレストランを構える一大グループの総帥にして、世界的巨匠は、誰にも何も伝えずに逝ってしまったのだ。
「兄と姉は、私と異なる母親を持つのですが、誰一人、何も知らされていなかった(苦笑)。店舗の契約まわりなどを含め、ほぼ父しか把握していない状況でした。突然亡くなり、家族、グループで総ざらいするしかない。自分の意思にかかわらず、父の仕事をやらざるを得なかったんです」