父・緒形拳と同じく、20代でNHK大河ドラマの主演を務めたキャリアを持つ俳優・緒形直人。大ヒットを記録した『優駿 ORACION』での映画デビューに始まり、今年、日曜劇場『アンチヒーロー』で改めて知らしめた存在感、出演を控える連続テレビ小説『おむすび』と、父と同じく俳優としての人生を歩むが、もともとは「裏方志望だった」とか。そんな緒形さんがTHE CHANGEを語る。【第4回/全4回】

緒形直人 撮影/有坂政晴

 1988年、映画デビュー作の『優駿 ORACION』で、日本アカデミー賞新人俳優賞、ブルーリボン賞、キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第1回石原裕次郎新人賞と、新人賞を総なめにした緒形さん。しかし実のところ、もともと俳優になろうとは思っていなかったという。

「1987年に青年座に研究生として入ったんですけど、スタッフ志望として入ったんです。役者には全く興味がなかった。主人公のオーディションを社長が持ってきて、該当する年齢の子が青年座には僕ともう一人ぐらいしかいませんでした。そのとき社長が原作を読んで“お前に合ってるから、受けてみないか”と」

 原作は宮本輝氏の小説『優駿』。競走馬オラシオンの誕生に始まり、取り巻く人々のドラマと、日本ダービー挑戦までを描いていく。

「僕はすぐにお断りしたんです。“社長知ってるじゃないですか。僕はここにスタッフ志望で入ったし、役者には全く興味がない”と。そしたら、それは話を持ってきてくれた先方に失礼だから、本だけは読みなさいと。それでその時、初めて小説というものを読んだんです」

――小説というものを読んだ(笑)。

「そうなんです。それまで、僕は小説ってあまり読んだ記憶がなかったんです。上下巻だったんですけど、朝までかかりましたが、その日のうちに一気に読みました。それが土曜日だったかな。翌月曜日に、社長のところに行って“オーディション、受けます”と伝えました」

――全く興味がなかったのに。

「それくらいの衝撃が走ったんです。それに、あのときの役、渡海博正という役ですが、小説を読みながら、“僕にはできる”と思ったんです。不思議と、他の人には譲れないと。なぜだか分からないんですけど、“絶対に、僕にはできる。オーディションに勝ち抜きたい。やりたい!”と思いました。もちろん、落ちたら終わりなんですが、最終的に受かって。鐘が鳴った、じゃないけど、自分の中の何かが燃え盛った感覚がありました」