夢中になったAI作品

 AI×ホラーという新たなジャンルを模索している雨穴さん。そんな雨穴さんがハマった、AIを題材にした作品はあるのか聞いてみた。

「最近で思い浮かぶのは、逸木裕さんの小説『虹を待つ彼女』(KADOKAWA)です。『変なAI』の動画を作るにあたり、まずはAIをモチーフにした作品を読んでみようと思って、いろいろと探しているときに、この作品に出会いました。

 “死者を人工知能化するプロジェクト”を軸に展開していくミステリーがメイン要素になりますが、その一方で、“死者に恋をした主人公”という恋愛要素も入っています。ホラー作品ではありませんが、ストーリー自体がとてもよくて、物語の中に上手にAIを取り入れていたので、夢中になって読みました。オススメです」 

 AI時代に突入したことで、雨穴さんの創作活動は今後どのような変化を遂げるのだろうか。今から目が離せない。

チェンジは「関わる人の数が増えた」こと

 2021年に作家デビューし、『変な家』(飛鳥新社)、『変な絵』(双葉社)と立て続けに大ヒット作品を生み出している雨穴さん。人気作家になったことで、人生に「CHANGE」は起きたのだろうか?

「本を出す前は個人でモノづくりをしていたので、その頃と比べると、協力してくれる人も増えて、大きな規模のモノづくりができるようになったのが一番の変化ですね。

 ただ、その一方で、自分が誰に向けて作品をつくるのかという気持ちは変えないようにしています。本が売れると、ありがたいことに、私のことを作家や小説家として見てくれる機会が圧倒的に増えました。すると、心の片隅で、もっと文学的で、もっと高度な文章表現をしたほうがよいのではないかという思いが出てくる。

 でも、私の作品が支持されているのは、分かりやすい文章で、本が苦手な人でも抵抗なく読めるからです。その点は忘れないようにして、これからも作品をつくっていこうと思っています」 

――分かりやすさもありますが、雨穴さんの作品には斬新なアイディアが散りばめられていますよね。たとえば、『変な絵』では、とある奇妙なブログを見つけることから物語がスタートしますが、そのブログがネット上に実在しているといったサプライズが仕掛けられていて、大きな話題を呼びました。

「ありがとうございます」

――そういった架空と現実の世界を地続きにさせたり、境目をあいまいにさせたりする演出という点では、ドキュメンタリー風の映像表現をした“ホラーモキュメンタリー”というジャンルが思い浮かびます。近年、流行の兆しを見せていますが、いかがですか?

「私も以前から流行っているなと感じていましたが、小説投稿サイト『カクヨム』に投稿された、背筋さんの『近畿地方のある場所について』という作品が、ネット界隈ですごい話題になっているのを見たときに、本格的なブームが到来したなと感じました」 

――なぜ、ホラーモキュメンタリーが流行っているのでしょうか?

「その作品やジャンルを懐かしいと思う世代と新しいと感じる世代、2つの世代ができることで、はじめて大きなブームになります。その点でいうと、かつての掲示板サイト『2チャンネル』で流行した“実話風怪談”に慣れ親しんだ世代が、現代風にアップデートされたホラーモキュメンタリーに惹かれているんだと思います。そして、実話風怪談を経験してない世代は、まったく新ジャンルのホラーとして楽しんでいるのではないでしょうか」