最新作ではAI(人工知能)が題材
今や人気作家となった雨穴さん。そのもうひとつの顔が、チャンネル登録者数100万人超えの人気ユーチューバーだ。現在も動画投稿を続けていて、その最新作『【科学ホラーミステリー】 変なAI』は、再生回数300万回超えの大ヒットとなっている。
――なぜ、AI(人工知能)を題材にしようと思ったんですか?
「昨年から、AIを使ったモノづくりが世間で脚光を浴びるようになったので、それに一切触れないのは違和感があるなと。それに、今後の作品にAIを用いる用いないは別にして、一度は経験して、自分の中でAIに対するスタンスを明確にしておかないと、表現に説得力がなくなるなと思ったんです。
そこで、画像生成AIが作ったものを題材にした、ホラーミステリー動画を作ってみました」
――小説『変な絵』の作中に登場する絵は、雨穴さんご自身が描いたと聞きました。それに対して、今回の動画で題材となる画像は、AIに作らせてみた。ご自身の中でなにか変化を感じましたか?
「『変な絵』では、絵を描いた人の性格や描いた場所、シチュエーションをしっかり決めて、リアリティを出すように意識しました。第1章の複数の絵を重ねるアイディアも、作中に組み込むうえで、一度考えとして排除してみたり、違う角度から発想してみたりと、試行錯誤しながら形にしていったんです。
AIに挑戦するうえでも、そのスタンスに大きな変化はありませんでした。ただ、AIの便利さは実感しました。クリックひとつで作品ができるし、すでに多様な表現もできるし、この便利さを一度覚えちゃったら、後戻りはできないだろうなと思います。
現代人がスマホなしでは生きられないように、近い将来、AIなしでは作品づくりが成り立たないと言われる日が来るのではないでしょうか」
貞子やジェイソンのような…
――今後はAIをこんな風に使ってみようというアイディアはありますか?
「実は今、対話形式のチャットAIに、試しにホラー小説を考えさせています」
――ええ!
「それに、ただのホラー作品だと面白くないので、“AIをモチーフにしたホラー小説を考えて”と、チャットAIにお願いしています」
――とても面白い試みですね。
「ただ、現時点では、私が期待したようなものはできていません。というのも、“AIをモチーフにして”とお願いすると、AIを恐怖の対象にした小説ができちゃうんです。
恐怖の対象というのは、たとえば、映画『リング』における貞子や、映画『13日の金曜日』における殺人鬼ジェイソンのような、その作品で最も恐れられている存在です。もちろん、AIの暴走によって主人公たちが窮地に立たされるといった作品もありですが、私の中では、まだまだAIを恐怖の対象として見ることができません」
――それはなぜですか?
「私は、ホラー作品の恐怖の対象には、リアリティが必要だと思っています。現時点のAIはまだまだ距離感があり、私たちの生活に密接していませんよね? なので、AIが襲ってきたと説明されても、生々しさを感じないんです。
そこで、最新作の『変なAI』では、画像生成AIを題材にはしましたが、あくまで、恐怖の対象は、そのAIの使い手である人間に設定しました。
ただ、これから先は、AIがどんどん人間社会に入りこみ、私たちの生活に密接していくと思います。すると、AIを恐怖の対象にしたホラー作品が成り立つようになる。そうなれば、これまで見たことがない、新たなホラー作品が生まれるかもしれません」