雨穴が衝撃を受けた見開きページ
――雨穴さんの人生を変えた作品とは?
「週刊少年ジャンプの人気漫画、冨樫義博先生の『HUNTER×HUNTER』(集英社)です。全編を通して好きな作品ですが、特に、最新章の“暗黒大陸編”に感動しました。物語の舞台が未知の世界である暗黒大陸へ移る、そんなワクワクするストーリーなんですが、その章の冒頭に、これまで一切明かされなかった暗黒大陸がドーンと見開きページで描かれた場面が出てくるんです。そのページを見たときの衝撃は、今でも忘れられません。
捕食中の巨大モンスターがいたり、古代の昆虫のようなモンスターが飛びまわっていたり、グロテスクな植物が生えていたり、ページいっぱいに不気味な生物がいる。そして、その背後には、今まで見たことがない未知の大陸が広がっている。それを見て、ワクワクするような好奇心と、ゾクッとするような気持ち悪さを同時に感じました。そして、“そうだ!自分はこういうものが好きだったんだ!”と思い出したんです」
――なるほど。
「その暗黒大陸のページを見た約1年後に、私は“雨穴”として活動を始めました。なので、『HUNTER×HUNTER』は、私が創作活動を始めるきっかけとなった作品のひとつと言えます。今でも、あのページのような、気持ち悪いけど目が離せないと思わせる作品をつくろうという目標を持っています」
「すごく怖い人たちなのに、スタイリッシュ」
覆面作家の雨穴さんは、映像作品などで姿を現すとき、全身黒装束に白い仮面をつけて登場する。そこで、こんなことを聞いてみた。
――雨穴さんの仮面姿は、どこか『HUNTER×HUNTER』にも出てきそうな見た目ですよね。
「それは初めて言われましたけど、意識はしていません。ユーチューバー活動を始めるにあたって、作品を際立せるために、自分自身の情報量を少なくしようと思って、黒装束をベースにした格好になりました。
ただ、ビジュアル面でいうと、『HUNTER×HUNTER』のヨークシン編に登場する“幻影旅団”に惹かれます。誰がというわけではなく、幻影旅団が並んでいる姿がすごく好きで、人物も服装もバラバラなのに、並んでみると統一感がある。それに、すごく怖い人たちなのに、とてもスタイリッシュ。いろんな要素が混ざっている感じが、とてもいいです。
私は、短い映像作品を作るとき、怖いだけで終わらないように意識しています。一瞬で人の興味をひくためには、怖いけどかっこいいとか、怖いけど滑稽だとか、複数の要素が必要なんです。その点では、通じるものがあるかもしれません」
素性を一切明かしていない雨穴さん。今回のインタビューでも終始、暗闇の画面越しの会話だったが、立ち入った質問にも真摯に受け答えするその姿勢からは、その人となりが伝わってくる。