伝説の「江口部屋」生活のスタート

 漫画家・江口寿史の最大の「THE CHANGE」は、二十歳での初投稿だった。そしてその後すぐに、怒涛の日々が始まる。

「連載をはじめた時は千葉の自宅で描いていたんですけど、すぐに間に合わなくなっちゃって。3か月後には出版元の集英社に行って描いてました。集英社に執筆室っていうところがあって、そこにいっぱい若い漫画家さんとか出入りしていたんです。そこを僕も使わせてもらっていました。

 本社ビルではなくて、近くに集英社が借りていた貸ビルです。2~4階を『週刊少年ジャンプ』と『週刊プレイボーイ』の編集部が使っていました。僕もそこで描いていたんですが、その執筆室に住んで漫画を描いている人がいたんですよ。鈴木さんという漫画家さんで、当時『BIG1』という王貞治さんの漫画を描いてらっしゃったんですが、その人が連載が終わってもう故郷に帰るから使っていいよっていうので、僕が使わせてもらったんです。たぶん鈴木さんはもう漫画を描いてないと思います」

 1977年の初めに投稿した作品で春にデビューを果たし、同じ年の秋には『すすめ!!パイレーツ』の週刊連載が始まる。さらに、その年の暮れには出版元である集英社の執筆室で暮らし始めた。ファンの間では伝説ともなっている“江口部屋”である。部屋は普通に日常生活を送れる感じだったのだろうか。

「生活っていうか、机と椅子と簡易ベッド(ソファーベッド)があるだけですよ。広さは10畳、いや8畳くらいだったかな。最初の投稿から半年足らずで週刊連載が始まったので、もう考えてる暇がないっていう感じで、本当に大変でした。毎週毎週ひたすら描いてました。必死でしたね」