転機になったオーディション

――特に心に残っている、転機となったオーディションはどの作品でしたか。

「『イエス・キリスト=スーパースター』と『オペラ座の怪人』、『ミス・サイゴン』 の3つですね。

『イエス・キリスト=スーパースター』は、それまで西村晃さんの付き人をやっていて、僕が四季のオーディションを受けた最初の作品なんです。このオーディションに受からなかったら、今の僕はないです。そのオーディションでは、メインどころではなくアンサンブルを狙いました。第1希望は群衆、第2希望は使徒。ジーザスやユダ、ピラトという男性のメインどころの役もあるんだけど、そこは選ばなかった。だってジーザスは一人しかいないでしょう。とにかく作品に出たかったので、一人だけじゃなく、何人かキャストがいる役を求めた結果、アンサンブルとヘロデ王という役をもらうことできました。」

――『オペラ座の怪人』は、市村さんにとって代表作の一つでもあります。

「もともとは、劇団の勧めでラウル役のオーディションを受けたんです。でも、主演のファントム役がなかなか決まらなかった時に、演出家のハロルド・プリンスから“君のファントムの歌を聞いてみたい”と言われてやってみたら受かった。

 僕はその前に、四季の『エレファント・マン』という作品をやっていたので、ファントムという役と共通する部分を感じてくれたのかなと思います。

『ミス・サイゴン』は、四季を辞めていないとオーディションが受けられない作品だったんです。四季を退団後にオーディションを受けたのですが、その時は“エンジニア”という役にしぼって臨みました。

 どうしてもやりたい役であり作品だったので、選ばれた時は嬉しかったですね。これまで受けてきたオーディションで揉まれたことで、一つずつ壁を乗り越える力を身につけてこられたのかなと思っています」

市村正親 撮影/三浦龍司